北朝鮮の労働党規約、韓国の憲法前文と同じく『抗日』の概念を明記

拙著やブログでも何度か書いてきたことですが、北朝鮮も韓国も、『抗日』を母体としています。詳しくは、韓国は憲法前文にて「臨時政府の正統性(legitimacy、統治の名分)」を母体にすると明記しています。詳しくは「臨時政府の法統を継承」としていて、「正統性とは書いてない」と反論する声もあるにはありますが、ここで法統というのは、もともとは仏教で使う「法の系統や伝統など」のことで、「正統性などを受け継ぐ、またはそのような系統や伝統」という意味になります(高麗大学韓国語大辞典より)。

北朝鮮も、金日成主席のロイヤル・ファミリー、いわゆる『白頭血統』を最大の正統性としており、その論拠は、抗日闘争(白頭山でのゲリラ戦)です。ただ、これはちょっと意外でもありますが、北朝鮮の憲法や、憲法よりも上とされる労働党規約には、韓国とは違う点があります。

韓国の場合は「臨時政府」という組織を持ち出すことで、併合時代、韓国で言う『抗日の時期(本当に抗日できたかどうかはともかく)』に範囲を絞っています。臨時政府というのが抗日時期にしか存在しなかったためです。北朝鮮は、憲法で金日成氏を「始祖」としていて、金日成こそ民族の解放者、『主体』たる革命の戦士だとしながらも、その範囲はあくまで金日成であり、抗日時期ではありません。よって、いままでの労働党規約にも、「金日成・金正日同志の革命精神を受け継ぐ」とは言っているだけでした。

このように、南北ともに抗日を母体としていながらも、解釈は少し違っていたわけですが・・2021年、北朝鮮の労働党規約に、『抗日』という字が明記されたことが分かりました。主体思想が始まったのは抗日時期であり、その敵対勢力は日本から始まった点を明らかにしたわけです。この流れが持つ意味は、韓国と北朝鮮の『抗日』たる正統性が、さらに一致したことにあります。思想的なつながりが一層強くなった、とでも言いましょうか。以下、高麗大学北韓統一研究センター チョン・ギョジン博士の見方を引用してみます。9月5日「クリスチャン・トゥデイ」寄稿文です。

 

<<・・2021年に入って、北朝鮮での最も大きな変化は、主体思想の出発点を、以前とは異なり、明確に提示した点である。北朝鮮は今年1月、第8回党大会で党規約を改正した。金正恩が党総書記に推戴されたこと、金正恩の代理職である「党第1書記」が新設されたことなど、いろいろ注目に値する内容が多いが、主体思想に関連する内容こそその意味は大きい。「朝鮮労働党は、抗日革命闘争時期に作られ、発展、教化されてきた主体革命伝統を固守し、絶えず継承し、発展させていく」。これが、主体思想の『出発点』を明らかにした、2021年版規約である。主体という言葉が抗日革命時期に作られた明らかにしている。以前の党規約である「朝鮮労働党は偉大な金日成同志と金正日同志が成し遂げられた主体の革命伝統を固守し継承発展させ、党建設と党活動の礎としている(2012年、2016年)」を全面修正したものである。以前は、主体革命伝統すなわち主体思想を、金日成と金正日が成し遂げたものだと曖昧に表現するだけだった。

さて、2021年には、主体思想が抗日革命時期から出発した釘を打ち込んでいる。これは主体思想の土台が、抗日、反日に基づいていることを明らかにしているのだ。なぜ北朝鮮は、2021年になって主体思想を抗日革命闘争時期に作られたと、北朝鮮の憲法よりも上位の権威を持つ党規約に正式に明記したのだろうか。内部、外部的要因があるだろう。

内部的には、金日成の抗日革命精神継承は、金正恩政権において抗米(反米)にも繋がる。外勢には絶対に屈しないという決意である。外部的には、韓国社会の内部で台頭している『親日レッテル合戦(※原文では『親日フレーム』)と無関係ではないと思われる。8月15日、光復会会長は、過去保守政府を全て親日派だと責め立てた。与党側では、本当にどうでもいいことで親日レッテルが乱舞している。与党も野党も関係なく、親日レッテルを貼られると生き残れないのが韓国政界である。私たちの社会では、親日レッテルは、どんな人でも抜け出せないブラックホールになってしまったのだ。事あるごとに親日レッテル貼りが流行るとは、韓国社会の深いところには、果たしてどんな思想的潮流が敷かれているのだろうか。筆者は、主体思想だと思う。親日レッテル合戦が深刻であることは、主体思想派の活動がそれほど旺盛であることを傍証するものである。金正恩の指示を受けて活動している人たちが韓国にいると思うと、ゾッとする・・>>

 

金「どうだ」 文「やったー」・・かどうかはともかく。気になるのは、同じ人が書いた同じ内容のコラムが「デイリーNK(北朝鮮情報専門メディア)」にも載っていますが、「親日レッテル」の部分が載っていません。単に字数の問題でカットしたのか、それとも何か別の理由があるのかは分かりません。

最後に、この類の話になるといつも書いておく注意事項です。「反日の裏に親北な人たちがいるのは間違いありません。これはとても重要なことです。しかし、反日には右派も左派もありません。右派には右派の反日があります。これもまた、重要なことです」。

 

 

 

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