昨日お伝えした「朝鮮工業の数字的検討」関連ですが、シリーズ記事の中に、朝鮮にも工業組合令が必要だという趣旨が、何度も出てきました。組合の設立や運用に関する法令のことです。私の心が曇っているだけかもしれませんが、朝鮮では組合でお互いに助け合う風潮ができておらず、いっそのこと法令で総督府が何とかしてくれ、というものでした。
1930年代の東亜日報、朝鮮日報などを読んでみると、工場組合令は、日本(当時の表現だと「日本本土」「日本内地」)では大正時代からあったそうです。でも、それが30年代に大々的に修正され、工場の職員を保護する、特に少年や女性職員などを保護する「工場法」とともに、大きな効果を出していたそうです。昨日のエントリーではお互いに助け合うという内容だけでしたが、もっとビジネス的な側面を見ると、組合が出来ると、工場が資金を借りるのも容易になります。銀行と工場の間に、「組合」が介入する形になるからです。
そして、日本の法令に比べると一部の修正はあったものの、例えば「工場の拡大などには許可が必要だ」「組合の理事任命などには当局の許可が必要」な側面で日本より厳格になったものの、朝鮮工場組合令は1938年8月1日から公布されました。ただ、日本では工場組合令(修正したもの)と同時期に施行されていた「工場法」は、1938年時点では朝鮮では施行されず、その代わり、いずれ朝鮮でも工場法が施行されることを前提にし、「朝鮮工場取締法」が施行となりました。
ここだけの話、「いま朝鮮で工場法やったら、工場全滅だ。前もって下準備をしておこう」という趣旨だったのではないか・・そんな気もします。今日は、1938年7月29日の東亜日報から「少年・女職工を制限、賃金統一及び災害防止」という記事から、朝鮮工場取締法を紹介します。
<朝鮮工場取締令は、警務局警務課で準備及び調査を行い立案されたもので、その内容は、朝鮮の特殊事情を考えて成文化されたもので、日本内地の工場法に基づいたものである。特に労働者の同一賃金、災害保護の二つを主に取り扱っており、負傷されたとか、障害者になった場合には、本人と家族に対して適切な扶助を行う。今は一般法令により若干保護されていたものを、工場法的な根拠から保護するためのものである。また、賃金が、現在、自由契約の見地からして不利な立場にいる労働者たちに、法的保護を加えることにしたのが、大きな特徴である。
そして、夜間作業など作業時間に関することも一部含まれており、少年職工、女性職工などの制限規定など、取締の根本的な細部事項は、朝鮮の特殊な事情と、特に軍需手工業の大量生産のため、この点の規定は次に延期された。細部はまだ分かってないが、この画期的な法令により、朝鮮産業界には爆発的な影響を及ぼすことになるだろう>
記事の題には「少年・女性を制限」と書いてあるのに、本文には「その点は次に延期された」となっています。題が間違いだとはちょっと思えませんので、「制限する内容は含まれている。でも、細かい内容は後で」という意味なのか、それともただのタイトル詐欺(笑)なのか、詳しくは分かりません。
「朝鮮工業の数字的検討」エントリーでも紹介しましたが、朝鮮でいう工場には多くの小規模工場が含まれており、それらは手工業で支えられていました。未成年や女性の労働が必須だったと、容易に想像できます。そんな人たちを「保護する」だけを重視すると、経済がどうなるのか。工場法が日本のまま施行されなかった理由も、記事が「爆発的な影響」と書いたのも、そのためでありましょう。他の記事を読んでみても、組合令に関してはほぼ間違いなく歓迎する記事ばかりですが、この取締法に関しては「うれしいが、心配だ」という論調もありました。
そろそろ「戦前」とされる時期も、残りわずかだった時代(1938年8月)。工場の職員の保護という方向性がどこまで守られたかは分かりません。しかし、少なくとも、当時の総督府の政策が「人類最悪の植民地支配」ではなかったこと。それだけは、間違いなく伝わってきます。
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