1939年3月、朝鮮日報が数週間も集中報道している「ハ・ユンミョン(河允明)事件」というものがあります。当時、朝鮮半島では女性を誘拐する事件が多かったですが、その中でも特に大きく報道されています。ハ氏一味は、65人もの女性を遊郭に売り飛ばし、なんと上海など中国にまで売り飛ばしました。昨日紹介した記事と繋がりがあると言えましょう。以下、1939年3月5日朝鮮日報から部分引用してみます。
<<稀代の誘拐魔夫妻逮捕・・被害者なんと65人。農村の貧しく無知な処女(※韓国で言う処女は、若い女性を意味する言葉です。以下、『少女』と訳します)を、ソウルに連れて行って就職させてやると甘い言葉で誘い出し、自分で体を貪り、遊郭や酒店に売り飛ばすこと何と7年間で65人。稀代の誘拐魔が東大門警察署で捕まった。この獣のような夫妻は、市内本町五丁目35番地に魔窟を所有しているハ・ユンミョン(40歳)とその妻キム・チュンギョ(36歳)である。
昭和7年頃から全羅道、忠清道など農村をめぐり、貧しい親たちに、その娘をソウルに連れて行って工場やデパートに就職できるようにしてやると、10ウォン20ウォンを差し出し、白紙に『これが娘の就職を許可するという証明書だから、拇印を押すように』とだまし、13~14歳の少女たちを汽車に乗せてソウルに連れてきては、自分がまず体を弄び、市内の~~(※地名省略)~~の遊郭をはじめ、北京、天津、上海などに最低700ウォンから1000ウォンまでをもらって売り飛ばしたものだ。いま自白した分だけでも65人におよび、京城市内各遊郭にいる被害者だけでも40人に及ぶ・・>>
被害者の一部が逃げると、犯人は『親族の子が家を出ていったから見つけ出してほしい』と警察署を訪れました。どう見ても怪しいと思った東大門警察署の人たちが調査を開始、犯人を逮捕し大勢の少女たちを助け出しました。ちなみに、題の部分に見える「部隊」とは、「他人数」のことです。例えば「留守部隊」は、犯人の住居地に監禁されていた少女たちのことです。
3月7日の『不法契約は当然破棄・・被害者女子できる限り救出』という記事によると、犯人たちは自分たちの犯行が具体的にされることを恐れてか、被害者女性の名前などを隠し通しており、警察を大いに悩ませたそうです。それでも12人の身元を確認、故郷に帰すことにした、とも。
東大門警察署の河田(カワダ)司法主任は、『(犯人が女性を)売り飛ばした店と被害者の名前さえ分かれば、すぐに違法契約による犠牲であることを確実にできる。被害者本人の意志さえあれば、契約は破棄されて当然であり、故郷に帰りたいというなら、彼女たちを救い出すよう働きかける』と話しています。
3月28日の朝鮮日報には、同じ事件がもう一つ起きたと、記事が載りました。今回は、昨日のエントリーで紹介した北支、満州などに売り飛ばしたそうです。被害者は100人以上。内容はハ・ユンミョン事件とほぼ同じです。他にもいくつか、当時の記事を読んでみると、朝鮮日報・東亜日報は、ちゃんと営業している職業紹介所すらも怪しいとしつつも、だからといって全数検査をするわけにもいかない(当時は、上京した人たちの就職に職業紹介所が大きな助けとなっていました)と悩んでいます。
わざわざこの記事をチョイスした理由は、昨日紹介した1940年キム・ギョンジェ氏の記事との繋がりがはっきりしているからです。また、ラムザイヤー教授の論文の内容とも、ある程度は繋がりがあるとも言えるでしょう。
最後に、拇印(原文では『指章』)のことですが、当時の遊郭でも、親の同意が無いと働くことはできなかったそうです。だから白紙に拇印だけもらって、あとから書類を作ったのではないか、と思われます。ハ・ユンミョン事件とは関係ありませんが、他人の妻を連れてきて『私の娘です』と嘘をついて遊郭で働かせようとして、そのまま逮捕された人の記事もありました。年齢設定に無理があったのでしょうか。
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