尹錫悦(ユンソンニョル)政権に限った話でもありませんが、韓国には「政権が変わったからもういいだろう」という考え方があります。新政権でいろいろ変わるだろう、と期待するのは別にいいですが、そんなレベルではありません。
個人的に、「いくらなんでも」と驚いたのが、尹大統領の当選直後、佐渡金山に対する反応でした。3月11日、林芳正外相がブリーフィングで佐渡金山の世界遺産登録に関する話が出ましたが、その件で韓国の一部のメディアは『尹氏が当選したのに、それでも佐渡金山の世界遺産登録を進めるというのか!』な論調の記事を出しました。過去エントリーでも紹介したことがありますが、短く引用してみます。以下、各紙、<<~>>が引用部分となります。
<<・・ユン当選者は候補だったとき、日韓の様々な問題を一括妥結する「グランドバーゲン」構想を主張したことがあります。しかし、日本政府は佐渡金山のユネスコ世界遺産登載の推進を、韓国の政権交代とは無関係にそのまま推進すると明らかにしただけに、両国関係の再設定に成功できるかは慎重な態度で見守らなければならないでしょう・・>>、などなど。右寄りメディアであるTV朝鮮(朝鮮日報の総合編成チャンネル)でこれです。他のメディアはもっと『なぜだ!』な論調(笑)が強く、まるで「手を差し伸べたのに、日本はその手を握らなかった」とするニュアンスでした。
昨日もまた、クァンウン大学教授で外交部大使出身のユイサン氏が、現金化問題について、こんなことを主張しました。<<・・韓日請求権協定第3条による「仲裁手続」で解決しなければならない。仲裁手続は日韓間の葛藤発生直後、日本政府が提案したが、韓国側が拒否した。その後、私たち側が再提案したが、日本側が受け入れなかったという。両国とも政権(※原文では『政府』)が変わったから、また試行してみるといい。私たちが勝てば自然に問題が解決するだろうし、負けても、その結果を受け入れなければならない・・(ソウル経済)>>。教授は「韓日両国が仲裁手続を始めると合意し、同時に関係改善のための措置を推進していけばいいのだ。仲裁の結論が導出される頃には、両国間の信頼はかなり回復しているだろう」としています。さて、それはどうでしょうか。
韓国側が提案したって、そんなことあったかな・・よくみるとこの部分だけ「~という」になっているし、いつどんな形で言ったのか、よく分かりません。それ以外だと、下手に基金がどうとか財団がどうとかと言わなかっただけで、まだマシだと言えるかもしれません。しかし、『政権が変わったから、またやればいい』という態度で、相手から信頼が得られると思っている時点で、これはすでにウンソク(甘え)でしかありません。それなら、次の政権はまた何をやるか分からないってことでしょう。
この考え方は、まるで、君主政治時代において「『王』が変わった」とする感覚に似ています。しかも、ちゃんとした王位継承などで変わったのではなく、何か外的な要因で前の王が追い出されたとか、そんな感覚に近いです。もうちょっとひねくれた書き方にしますと、『国そのものが別のものになった』感覚とでも言いましょうか。
「統治の名分」などの意味を持つ、正統性(legitimacy)という言葉があります。王権の場合は「ちゃんとした王位継承」が正統性だと言えるでしょうし、民主主義国家なら「合法的な選挙」がその国の何よりの正統性だと言えるでしょう。韓国ではこの正統性をものすごく大事にします。臨時政府の正統性を受け継いだとか、大統領から小学生まで普通に話します。
しかし、この『政権が変わったから』というのは、正統性を重んじる人たちの考えだとはとても思えません。なぜなら、個人的に、「正統性とは、連続性でもある」と思っているからです。ここまで『政権が変わったから、もう別物』と考えるのは、自ら「国家の正統性」を否定することではないでしょうか。『政権』が変わっても、それは国家としては連続性の一部でしかないからです。なにせ、王ならともかく、大統領は国民投票で決まるものでしょう。民主主義は権利と責任も分かち合いです。それを『断絶』して、何が残るというのでしょうか。
併合時代をどうしても『最悪』と設定するために、韓国は、他のでもない自分のおじいさん、おとうさん世代を、『なにもできなかった』人たちとして描いています。同じく、『政権が変わったから~』という甘えを維持するために、国の連続性、正統性を断ち切っているのではないか。そんな気もします。最近エントリーに私見が増えた気もしますが、ネタがないと私見が増えるものです、はい(すみません)。
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