政府レベルの国家政策として華々しくデビューし、韓国内ではかなり話題になったものの、それからはいっさい聞かなくなった・・そんな政策がいくつかあります。金大中(キム・デジュン)大統領がサッカー応援の熱気に着眼して言い出した『興(フン)の文化』。李明博(イミョンバク)大統領が北朝鮮の非核化関連で言い出した『グランドバーゲン』。朴槿恵(パククンへ)大統領の『創造経済』。文在寅(ムンジェイン)大統領のときには、『包容国家』というのもありました。確か、国家が個人一人一人の人生全てに責任を取るとか、そんな壮大な構想だったと記憶しています。
そして、それら『第一部・完(二部は永久未定)』に、また新しい一ページが加わりそうです。尹錫悦(ユンソンニョル)大統領の『大胆な構想』です。ご存知、ユン政権は始まってからすぐ、『北朝鮮問題で積極的に協力するから、中国関連の案件で例外を認めてほしい』というスタンスを取りました。国内メディアは、特に米韓首脳会談の頃から『日本より先に韓国に来た』などいくつかの論拠で、米韓関係はすでに日米関係以上の同盟関係にアップグレードしており、ユン政権は完全に米国側に舵をきった、と報じるようになりました。もちろん、そのユン政権の動きに、日米は基本的に『様子見』でした。
それから、各メディアは、「すでに『日米側』だと示したのに、なんでこんなに『もらえない』のか」などと記事を載せるようになりました。原文ママで、もらえなかった、もらえないでいる、そんな文章が溢れました。全て本ブログでエントリーしてきた内容なので、読者の皆様は『あったあった、そんなの』と思われることでしょう。それからは、中国にもっと気を使うべきだという意見が増え、ユン政権はペロシ議長と会わず、中国との外相会談でサプライチェーン強化を提案、ついに政府レベルでMOUを締結するなど、明らかな『ブレ』を見せるようになります。
そして、8月15日の演説で、ユン大統領は、それまで唯一日米側と意見が合っていた(ように見えた)北朝鮮関連政策でも、妙なことを言い出しました。非核化のための話し合いに応じれば、破格な支援を行い、国連制裁も解除する(ように頑張る)、というのです。大統領が直接言ったわけではありませんが、「北への支援は制裁の免除だ」という、文在寅政権とそっくりの話まで出てきました。これは、日米の基本路線である『非核化が確認できるまで、制裁は続く』と相反するものでした。これを『大胆な構想』と言います。
この件で、ネッドプライス米国国務省広報担当者は「真剣で持続的な対北外交の道を開く韓国の目標を、強く支持する」としながらも(同盟国大統領の演説で出てきた内容なので、直接批判はできないのでしょう)、対北制裁に関する部分の免除や解除については、「残念ながら、現時点で完全に仮説だ、そもそも、北朝鮮はいままで外交や対話に関心があるといういかなる兆候も示したことがない」と話しました。ネッドプライス氏なりに迂回的に『それは違う』と話したわけですが、マネートゥデイなどによると、チェヨンサム外交部スポークスマンは定例ブリーフィングで、韓国側からは『そんなことない』『すでに米国とは大胆な構想の目標、原則、そして大まかな方向性について協議を終えた』、『米国だけでなく、中国とも、日本とも話し合った案件だ』と主張しました。
これは、米国と中国、両方の協力が無いと、まずできない事案です。なのに、あっさり米国側からは『なんだそれは』と言われたわけです。個人的に、タイミング(15日)的に、これは24日の韓中修交30周年記念式を意識したものだと思っています。その場で中国側が、この案に対して何か肯定的なことを言ってくれると、北朝鮮を動かすことができる、ユン大統領はそう思ったかもしれません。しかし、当日、ユン大統領は非核化について言及しましたが、習近平主席は、大胆な構想はおろか、非核化そのものについて何も話しませんでした。中国はいままで、表現も曖昧でただの表向き表現ではあるものの、一応『非核化』を話していました。それすらも無くなったわけです。
24日の記念式、ソウルと北京でそれぞれユン大統領と習近平主席の祝賀メッセージが代読されましたが、ユン大統領は非核化において中国の協力について話したけど、中国側の内容に、なんだかんだでいままでは言及されていた『非核化』はありませんでした。SBSはこの件を取り上げながら、すでに中国の対北政策において、非核化というものは存在しない、という中国側の専門家の分析も紹介しています。以下、<<~>>で引用してみます。
<<・・新しい提案はありませんでした。それでも目立つテーマは、北朝鮮の核問題でした。尹大統領は北朝鮮の核問題解決のための中国側の建設的役割を強調したが、習主席はこれに言及していません。いままで「朝鮮半島非核化」とも「北核廃棄」とも、表現の違いはありましたが、北朝鮮の核問題に関連した儀礼的な言及がありましたが、それすら、中国側から聞かなくなりました・・・・ユン大統領は15日、光復節の祝祭で北朝鮮に対するいわゆる「大胆な構想」を明らかにしました。北朝鮮の実質的な非核化がなされる前でも、初期交渉過程から経済協力を行うことができるというのが核心です。希土類のような北朝鮮鉱物資源を、韓国と国際社会の食糧と交換する案なども提示しました。必要であれば、対北朝鮮制裁の部分的免除も国際社会と協議することができ、非核化に対する包括的合意が導出されれば、南北経協を本格化すると明らかにしました。
しかし、わずか4日後、北朝鮮のキム・ヨジョン労働党副部長が、いくつかの強い言葉と共に、これに対する北側の立場を明らかにしました。北核を「国体」と呼び、南側の提案を「実に何も分かっていない」と批判しました。これまで、北朝鮮には非核化の意志があるとしていた一部の主張を、困らせる発言でした(※大胆な構想も、その一部です)。さらに、中国は韓国にTHAAD圧力を続けています。中国外交部の広報担当者がいわゆる「サード3不」はもちろん、配置済みのサード運用の制限を意味する「1限」まで取り上げました。グローバルタイムズなど中国の官営媒体は、韓中修交30周年をきっかけに載せた記事でも、サードを懸案だと強調しました。
在韓米軍にサードを配置した原因が、北朝鮮の核です。したがって、中国が北朝鮮の非核化だろうが朝鮮半島の非核化だろうが、非核化の重要性を強調するほど、(※現状においての)THAAD配置を正当化すると見ることができます。ス・インホン中国ランミン大学教授はメディアとのインタビューで、「朝鮮半島非核化は、もはや中国の対北政策の基本要素ではない」としました。昨年、習主席が金正恩委員長に送った親書に、非核化が言及されなかったという点も、これを裏付けると言いました(SBS)・・>>
対日、対米、対中、そして対北。ユン政権の外交、どれも構想だけは大胆でしたが、いまのところ、これといった成果は見えてきません。『前が文政権だったから』というのは確かに大きいですが、国内外において・・なんというか、大胆に書くと「『◯』が増えそう」なところです。特に、中国に対するスタンスは、本当に『むしろ文より問題点が多いのでは』と思われる部分もあります。はてさて、逆転はありえるのでしょうか。外交的にも、支持率的にも。
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