政権交代の後も変わらない、韓国の「戦略的曖昧さ」・・米中両国の専門家「ユン大統領は、何がしたいのか。よく分からない」

詳しくどこで読んだのか不確かで恐縮ですが、いつだったか、まだTHAADの配置が決まる前の頃、政府の対中外交の方向性はいったい何なのか、という主張を読んだことがあります。記事ではなく、何かの討論会の切り取りのような内容でした。いまでは戦略的曖昧さ(米中の間であえてはっきりした態度を示さず、両方から得をすること)という言葉が有名ですが、あのときはまだいまほどではなかったから、でしょうか。別に中国との対立を主張する気は無いけど、外交なら、一定の方向性にもとづくものではないのか。なのに、対中政策にはそんなものが見えず、それぞれの案件によって基本スタンスが変わってしまう、という内容でした。

その中、「中国は日本に対して、『何をしても、日本の基本スタンス(いわゆる『西側』国家である)は変わらない』ことを知っている。だから、圧力をかけたりしないし、できない」、「戦後、中国は日本に対して『同じアジアの国だから』という表現を、日本政府や世論を動かすために用いたが、効果がないと知り、それからはただ友好を語るときのレトリックな表現になった。あのときと似ている」という主張がありました。

 

案件によって反応が『ある程度』変わるのはともかく、基本スタンスがはっきりしているので、もう『こっち側ではない』と認めざるをえない、というのです。何かをしかけるとしても、中国も相応のダメージを受けることになります。中国は、徹底して何かの利益がないと動かない主義なので、これといった成果が期待できないのにわざわざ外交的・通商的な問題を起こしたところで、結局は両方が損をするだけだと分かっている、というのです。

それからずいぶん時間が経ちましたが・・昨日、まったく同じ主張がありました。尹錫悦(ユンソンニョル)政権の対米・対中政策、いや外交において、その基本方針は何なのか。米国関連も、口で言っているのと実際にやることが違う。ユン政権の外交は、いったい何なのか。それが、国内だけでなく米中の専門家たちすらも、よくわからないというのです。以下、「時事IN」と韓国日報からの引用となりますが、基本的には、外交の世界においてあまりにも大きな懸案、いわゆるチップ4とかTHAADとか、そんなものが山積みなのに、中国との関係はおろか、米韓関係においても、その方向性や『ビジョン』がまったく見えない、『良い政策』なのか、そうではないのか、そんな話ではなく、政策それ自体が『無い』、という内容です。以下、各紙、<<~>>が引用部分です。

 

<<・・(※ユン大統領がペロシ議長に会わなかったことについて、このときにユン政権が見せたのは臨機応変に頼るスタンスだったとしながら)より大きな疑問が残る。ユン大統領の外交安保政策の大きな方向が、変わったのか? という点だ。正確には、「ユン大統領の外交安保政策って、何なのか」という質問だ。ユン大統領は大統領選挙候補だった頃、文在寅政権の外交安保政策を「韓米同盟の弱化、対中外交は弱すぎ、したがうだけの南北関係」としながら積極的に批判する選挙キャンペーンを行った。THAADを追加配置するという公約も残した。

2月当時、尹錫悦・国民の力大統領候補は米国の外交専門誌フォーリンアペアスに寄稿した。「米国と中国の間の懸案が生じるたび、明確な立場を定めなかった文政権は、同盟国である米国から遠ざかり、中国側に傾くという印象を与えてしまった」。特に、「3不(サード追加配置、米国のミサイル防衛網参加、韓米日軍事同盟の三つを推進しないこと)」については、文在寅政権府が中国に「あまりにも低姿勢を見せてしまった」と書かれた翻訳本を記者たちに配布した。英語原文には「過度に宥和的な態度」と書かれている。

 

しかし、大統領当選後に見せたユン政権の外交・安保のメッセージは、選挙キャンペーンの時とは全く違った。 5月2日、人事聴聞会でパクジン外交部長官(当時候補者)は、サード追加配置について慎重な立場を表した。「重要なのは、安全保障問題によって経済が悪影響を受けないようにすることだ」。翌日の5月3日、大統領職引受委員会はユン政権の「110大国政課題」を発表した。外交・安保・国防と関連しては「自由、平和、繁栄に寄与するグローバル中枢国家」の項目に18種類が入った。サード追加配置をするという内容はなかった。外交安保政策を選挙キャンペーンに使うのと、行政を運営しなければならない「現実」は違うという、告白のように見えた。

ユン政権が置かれた現実を、韓国を長く研究してきた海外の学者たちはこう見ている。ステファン・ハガード米国サンディエゴ・カリフォルニア大学(UCSD)教授は7月8日、韓米経済研究所(KEI)にこのような文を寄稿した。「韓国は、新しい冷戦の流れを、完全に受け入れるかどうかについての戦略的問題に、まだまだ直面していて、どのような選択をするか、まだ決めないでいます」(時事IN)・・>>

 

しかし、だからといって中国側から(官営メディアの記事など、表面的なことはともかく)も、あまり評価されていません。韓国日報によると、中国側の専門家からもまら、何がしたいのかよく分からない、政策が、深刻なほど『無い』と思われている、とのことです。続けて引用してみます。

<<・・リチュンプ南海大アジア研究センター副主任は21日、、「レトリック(外交的修辞)だけで、実体と内容がないのが、尹錫悦政権の対中政策の最大の問題だ」と指摘した。彼は「韓中修交の始まりはノ・テウ政権が、パートナー関係は李明博政権が、習近平国家主席の史上初の韓国訪問は、朴槿恵政権がそれぞれ成し遂げた」とし「いままでは、保守側の政権も、韓中関係のために努力したが、それが現政権からは見えない」と話した。続いて「韓米同盟を重視するという特性を勘案しても、ユン政権の韓中関係政策の『不在』は深刻なレベルだ」と話した。

韓中関係の具体的な方向性に対して、ユン政権は明確な目標を提示できないでいる。「『相互尊重』が韓中関係の基本的な原則であり、基調だ」というマニュアル的な回答がすべてだった。ムン・イルヒョン・中国政法大教授は、「相互尊重という言葉に、果たして韓中関係改善という意志が十分に含まれているのか分からない」と述べた。彼は、「相互尊重とは、文在寅政権の対中外交が、低い姿勢のものだったという政治的な政治的な判断を反映した表現だと思われる」、「前政権の外交を無しにしようとするばかりで、いざユン政権が示す両国関係のビジョンはどこにもない、というのが問題だ」と指摘した(韓国日報)・・>>

 

それはそうでしょうね。中国とて、『これなら、いくらでも動かせる』と、いわゆる『弱い環』として見ているだけです。官営メディアがユン政権の選択を高く評価する記事を載せても、それは表向きなだけです。本当に『こっち側』に連れ込む気もないでしょう。弱い環は、相手側にあってこそ、使い道があるというものですから。自分側の弱い環にされては困ります。ただ、動かす、弱める。それが十分できると思っている、そんなところではないでしょうか。

 

 

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