また通貨安関連です。この1週間で、通貨安に関する韓国メディアの論調が変わりました。いままでは、尹錫悦(ユンソンニョル)政権の主張する『外部要因(米国の政策)』でこうなったから仕方ない、米韓通貨スワップはまだですか、そんな内容の記事が主流でした。また、通貨スワップなどを主張する記事でも、ユン政権及び中央銀行(韓国銀行)の『問題ない』とする話を前提にしてのものでした。ですが、中央日報など大手も含め、デイリアン、ソウル新聞など、私が読んだだけでも複数のメディアが、直接的に『スタンスも政策も、本当にこれでいいのか』とする記事を載せています。もちろん、単に政権批判がしたいだけという記事もありますが。
最近の通貨安は世界的なことですが、3つの点において、ウォンの通貨安が問題視されています。1つ目は、やはり米韓・日韓通貨スワップ関連です。各メディアは、いままで『米国側に立った』としてきた(私はこの見解からしてズレているといつも書いていますが)だけに、なんで米国から協力が『もらえ』ないのか。そんな指摘です。インフレ抑止法による電気車補助金、半導体において中国に投資を行うと支援金を回収するなど、最近韓国メディアに広がっている、米国への失望感が、このような論調につながったとも言えます。そして、このような話には、米国だけでなく、ユン政権に対しても『ちゃんと外交できなかった結果ではないのか』とする不満として現れています。
2つ目は、すでに韓国銀行が何度も金利引き上げを行ったことです。これまた昨日のエントリーでも書きましたが、いわゆるゾンビ企業の急増、GDPよりも大きい家計負債、不動産価格下落など、容易に決定できるものではありませんでした。それでも金利を何回も上げましたし、特に0.5%上げたときはかなり話題になりました。しかし、これといって効果は現れていません。一部の専門家からは、「(明らかに米国と金利差が広がらないようにするための引き上げだったのに、実際に米国ほどの金利引き上げはできなかったことで)『内部の経済状況により、米国の金利引き上げについていくことができないんだな』と、海外投資家たちに思われてしまった」という指摘すら出ています。
最後に、『外部要因というけれど、2008年のリーマン・ブラザーズのような『急激なイレギュラー要因』は発生していないのに、ここまで通貨安が進んだのは前例がない点です。簡単に言うと、『~さえなんとかなれば、前の状態に戻る』などと、原因を一つだけに特定できないという話です。中央日報は、ある一つの急激な要因によるものではないだけに、「米国との金利逆転(米国のほうが金利が高くなって、外国資本が流出する)と通貨安が長期化すれば、韓国経済は『徐々に加熱される鍋の中』の状態になってしまう」とし、これの論拠として、「他の通貨に比べてもウォンの通貨安が著しいこと」と挙げています。以下、各紙から、専門家見解を中心に引用してみます。<<~>>が引用部分となります。
<<・・(※政府や中央銀行は問題ないとしているけど)専門家たちは現状を重く見ている。ヤンジュンソク。カトリック大学経済学科教授は、「大きな事件もなしに、完全に韓米金利が逆転、8月韓国経常収支赤字転換可能性などがあり、為替レートが1400ウォン台近くになっている」とし「米国の金利引き上げ中断、国際原油価格の大幅な下落、中国の景気回復など明確な変化が起きれば解決可能かもしれないが、そんな兆しはまだ見えていない」と診断した。またヤン教授は、「政府が、特別な対応策もなしに事実上同じ内容の『経済が健全な状態だ』趣旨の発言だけ繰り返しているが、外国為替市場を安定させるには限界がある」と述べた。
ソンテユン延世(※ヨンセ)大経済学部教授は、「米国が75bp(1bpは0.01%)ずつ金利を上げる状況で、韓国は25bpずつ持続的に金利を引き上げると公言したのが、決定的だったと思われる」とし、「米国との金利差が続いているのに、金利を大幅には上げられないほど、経済内部の状況が不安だという認識を、海外の投資家たちに植え付けてしまったのだ」と話した。ソン教授は引き続き、「1997年や2008年とは異なり、決定的事件もなしに為替レートが1400ウォン台に進入した。現状を重く見ている」と強調した(中央日報)・・>>
<<・・政府の相次ぐ介入発言にも関わらず、為替レートの傾向が変わらないでいる。ユン大統領まで為替レートの安定に直接言及したが、市場には全く効いていない姿だ。専門家の間では、もう一度通貨スワップの必要性が取り上げられている。ウォン・ドル為替レートは5日基準で1375ウォンを突破し、2009年以後、13年5カ月ぶりに再び最高点を更新した。現在の傾向が続けば、1400ウォンさえも超えることができる(※記事掲載時点の数値です)。一部の専門家たちは、韓米通貨スワップと韓日通貨スワップを再導入しなければならないと声を高めている(デイリアン)・・>>
<<・・政府はこの日(※14日)、予定になかった会議を緊急招集して口頭介入発言を出したが、すでに通貨安の傾向に乗った為替レートを防ぐことはできなかった。 バン・ギソン企画財政部第一次官はこの日、緊急経済タスクフォース(TF)会議を開き、「主要国の金利引き上げ幅と速度に対する不確実さが大きくなっている点が、国内外の金融市場の変動性を高めている」とし「グローバル・インフレと通貨政策正常化スケジュールに注意しながら、格別な警戒心を持って金融・外国為替市場の状況を注視してほしい」と強調した。
最近、グローバル金融市場で、外国為替保有額が減少することに対する懸念の視線が大きくなっている。そのため、外国為替当局からすると、為替レートを外国為替保有額を通じて積極的に防御することもできない状況だ。韓米通貨スワップの必要性が台頭しているが、すぐに現実化するのは容易ではない。 ハジュンギョン漢陽(※ハニャン)大学経済学科教授は、「通貨安と関連し、政府はいったん微調整をしながら市場の心理と期待を調整することが最も重要な課題のようだ」とし「韓国経済のファンダメンタル(基礎体力)に対する市場の懸念を払拭させる政策とビジョンが必要だ」と話した(ソウル新聞)・・>>
『政策とビジョン』といっても、言うのは簡単ですが、できることならもうやっているはずでは。『愛と正義』と書いても文章は成立しそうですが、どうでしょうか。最後になりましたが、通貨スワップについては、一つ前のエントリーをぜひ参考にしてください。
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