本ブログでも不定期に数回取り上げましたが、韓国の半導体業界が大いに揺れています。単なる半導体景気の話ではなく、米中のグローバル・サプライチェーン再編成において、半導体産業の構造が中国市場から離れられなくなっていること、確実に強化されている日米台協力、メモリー半導体分野での中国の技術発展など、もっと複合的な『揺れ』の話になります。こんな状況になると、韓国メディアには『なにもしなくていいのではないか』という意見が増えます。十分有利な立場にあるので、なにかをする必要はない、というのです。
最近も、『米国が推進しているサプライチェーン再編で私たちこそが最も重要な国』『半導体、電気自動車など米国がサプライチェーンを再編しようとする主要分野で私たちは最高の技術力と安定的な供給力を持っている』『米国も中国も、私たちを必要としている。だから、米国から安保を、中国から実利を取っても、問題ない』などの意見が増えました。すべて本ブログで取り上げたことがある発言です。一部のメディアは「チップ4に入るとして、私たちの役割が何なのか見えない」などの疑問を提起していますが、パッとしないのが現状です。
そもそも、あまり話題になっていません。半導体関連投資の税額控除などを改正する、いわゆる「Kチップス法」はこれといった展開無しに国会で『漂流』しているし、これもまた一部のメディアが取り上げてはいますが、話題になりません。そんな中、今年になってからも半導体輸出が大幅に減っていることがわかりました。ソウル新聞の記事によると、今月(1日~20日まで)、輸出(前年比、金額)は2.3%減少しました。相変わらず貿易収支は回復しないでいますが、輸出額だけで見るとそこまで動いたわけではありません。
しかし、半導体は同じ基準で44%も減少しました。「品目別にみると、最大輸出品目である半導体輸出額がグローバル景気鈍化と業況悪化により43.9%減少した。コンピュータ周辺機器(-55.5%)、家電製品(-38.0%)、無線通信機器(-25.0%)、精密機器(-15.6%)輸出額も大幅に減少した」、と。中国への輸出は22.7%、ベトナムへの輸出も18%減少。イ・チャンヤン産業通商資源部長官は「半導体は早ければ7~9月期には回復の見通しが出ている」「チャットGPTや人工知能(AI)の活用が増え、メモリ需要がかなり増えると見ている」と話しましたが。
そんな中、サムスン電子とSKハイニックスの中国工場に関する「1年猶予」関連で、新しい動きがありました。これは半導体関連装備輸出に関する猶予で、現地に工場があるサムスン電子、SKハイニックスの場合は『自社工場への装備搬入』にも問題が起きるため、1年猶予を得ています。サムスン電子は中国の工場でNANDの40%を生産しており、SKハイニックスはDRAMの50%、NANDの30%を生産しています。韓国の半導体輸出において、中国への輸出は2022年基準で39.7%
この「1年猶予」に関する評価も、「再猶予は難しい。1年でなにができるのか」という意見と、「再猶予可能で、半導体法関連の他の事項も1年猶予を得る方向に話を進めるといい」とする意見に分かれていました。そんな中、米国側から「猶予が終わった後」に関するコメントがあったわけです。ここからはMBNです。 <<・・米国政府のハイレベル当局者が、サムスン電子・SKハイニックスの中国半導体工場に技術レネルに上限を置くと発表しました。米商務省次官は、半導体輸出措置の猶予1年が終わる10月以降にはどうなるのかという質問に、「半導体レベルに上限を置く」と述べました・・
・・【アラン・エステベス/米国商務省次官「どうするかは企業と協議しています。それら企業が生産できる半導体のレベルに上限を設定する可能性が高いでしょう」】。サムスン電子とSKハイニックスが中国工場で一定の技術水準以上の半導体を生産できないように設定する、という意味です。中国が各社を通じて先端半導体技術を習得しないようにする、という意味でもあります。その上限をどれぐらいに設定するかは、『中国の行動にかかっている』と述べました。【アラン・エステベス/米国商務省次官「(どこまで設定するかは)中国がどのように行動するかにかかっていますが、私たちは各企業と話し合っています」】・・>>
私には、次官の発言が「私たち(米国)に言わないでほしい」という意味にも聞こえますし、「中国への装備(新型)の搬入はしないでください」という意味にも聞こえますが・・どうでしょうか。日本とIBMが先端半導体で協力するというニュースが出たとき、『広く(水平)集積するのはIBMの得意技だが、立体的に集積(積層)するのは日本の得意技だ。お互いに必要とする技術があった』という解説を聞いたことがあります。日本はサプライチェーン再編成においてもハッキリと立場を表明していますし、このような技術的協力が可能なら、『役割』がハッキリするでしょう。韓国の場合、関連記事をいろいろ読んでいると、補助金がどうとか投資金額がどうとか、そんな数字の話ばかりです。これが、いまの『揺れ』のもっとも大きな原因かもしれません。
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