昨日は急に休んでしまって申し訳ございませんでした。気を取り直して、更新行きます。不動産バブルが弾けるパターンにもいろいろありますが、世界で唯一韓国にだけ存在する(他の国にも似たような制度があるにはあるけど、一般的ではない)と言われている「伝貰(ジョンセ)」制度もまた、「はじける」姿を見せています。比較的層数が少ない集合住宅を韓国ではヴィラと呼びますが(もともとは高級住宅の意味ですが)、ヴィラ、オフィステル、さらにはマンションを1棟まるごと買って、それらを『貸す』事業が流行っていました。特にヴィラの需要が高く、一時はヴィラのジョンセ投資が不動産関連ニュースの定番になっていたりしました。ヴィラなど家を買って、ジョンセで運用し、その資金でまた家を書い、また貸す・・そういうパターンです。
しかし、どうせ債務で用意した家。各種債務負担に耐えられなくなった大家が次々と倒れ、彼らの不動産はオークション行きとなりました。ジョンセは「個人同士の取り引き」とされているため、オークションになると、入居者が保証金(家を借りるときに大家に預けたお金)を返してもらえる可能性はほとんどありません。部分的にでも回収できれば、それでも運がいいと言われています。不動産バブルとともにジョンセ・ビジネスがはじけるようになった理由は、いろいろありますが、ジョンセ価格が基本的には「公示価格」と連動するからです。去年、韓国の共同住宅(マンション、アパート)の公示価格は18.61%(ソウルの場合は17.3%)も下がりました。リーマン・ブラザーズ事態などの影響が反映されている2009年の公示価格が前年比で4.6%下落でしたから、大きく揺れたと言えるでしょう。
基準金利引き上げにより増えるローン返済の負担、ジョンセ価格の下落などで、すでに入居している人の保証金が返せなくなった大家たち。数十、数百の家で、まるで何かの企業のようにジョンセビジネスをしていた人たちも、次々と倒れていきました。そう、中身はすべて債務だったわけです。「ヴィラ王」「建築王」などと呼ばれる「大物」大家たちは、すでに去年から大きなニュースになりました。建築王とやらは、所有している家の数が2000を超えていた、とも。ヴィラ建築が流行ったことなどで、特に問題が多発している仁川のM区。ここだけで3000世帯がジョンセ問題にあい、対策委員会が組織されました。その対策委が431世代を対象に調査した結果、ちゃんとジョンセ保証金が回収できそうなのは132世代(30.6%)だけでした。全額なのかどうかは分かりませんし、オークションとて、最近はちゃんとした値がつかない場合が多いと聞いていますが(万が一、オークション全額を入居者がもらうと仮定しても、保証金に満たない可能性もある)。
こんな中、ユン大統領は、ジョンセ問題で家をオークションにかけられた場合、そのオークションを中断するように、と緊急指示を出しました。しかし、最初から保証金を返すつもりはなかったと明らかな件もあります(偽の書類を用意していた、など)が、そんなつもりがあったのかどうか、はっきり判断できないケースも多々あります。ユン大統領が指示したのは前者の場合ですが、前者なのか後者なのか、どうやって判断するのか。また、金融機関などの立場もあるのに、関連法律の改正なども無しに(国会の立法手続きを経ずに)そんなことしていいのか、という反論も出ています。
大統領が指示を出したのでとりあえずやらないとならない政府機関としては、対応に困っていることでしょう。保証金が返してもらえなくなった入居者たちは、いままで『政府の制度のもとでこんなことになったから、政府がなんとかすべき』、『まず私たちを救済して、それ以外(金融機関の資金回収など)は後にすればいい』などを主張していましたが、一応、その主張が通ったことになります。ただ、静かに、次の世に旅立った青年も、先のM区だけで3人います。
最後に・・前にも何度か書いたので最後にしましたが、ギャップ投資というのがあります。たとえば、10億ウォンのマンションが買いたいけど、6億ウォンしか持っていない、Aさんという人がいるとします。そんなAさんは、4億ウォンぐらいでジョンセできないかなと物件を探していたBさんに、「あのマンション買ってあなたに貸すから、その4億ウォンをジョンセ金として先に私に預けてください」とし、念願のマンションを手に入れ、大家になりました。やりました。よっ、貴族! 住むのはBさんですが。あとは、Aさんはカップ麺で生き延びながらマンション価格が上がるのを待つのみ・・のはずでしたが。価格は下がっているし、ジョンセ金も下がったし、ジョンセ契約(普通2年間)が終われば、Bさんに4億ウォン返さないといけません。貴族も大変ですね。
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