所得主導成長という言葉があります。韓国メディアの記事では、文在寅政権の専売特許のようになっています。全般的に所得が増えるならそれはいいことですが、どちらかというと文政権の所得主導成長は、最低賃金の大幅な引き上げという形「だけ」でした。他には似たような趣旨の政策をあまり聞いた記憶がありません。どこをどう見るかにもよりますが、最低賃金を急激に、大幅に引き上げすぎたことで、むしろ自営業者などが人を雇わなくなったり、解雇したりして、いわゆる『ナホロサジャンニム(1人社長様、雇用無し自営業者)』が大幅に増え、いまの自営業リスクにつながっています。
また、これは文政権だけの問題でもありませんが、債務(家計債務、自営業債務など)のほうがあまりにも急増し、その分、返済に使う金額も増えたので、所得主導成長といっていいのかどうか、それもよくわからない結果になりました。で、マネートゥデイなど主に経済メディアが報じている内容ですが・・共に民主党の李在明議員(現在、共に民主党は党代表を選ぶための党内選挙中です)が、その延長線上にある政策を出しました。なにもしなくても得られる「基本所得」制度を導入し、ソウルから離れた地域の人たちほど多額を支給する、というのです。アジア経済というメディアには「国民1人に年200万ウォン(約21万円)」としていますが、他のメディアには金額は明記されていません。
2022年2月、李議員は「ウォンはもうすぐハードカレンシーになる」と主張したことがあります。当時、経済団体の報告書を読み間違えたのではないか、という話もありましたが・・今回もそんなノリなのか、ただの人気取りか、それとも本当にそう信じているのか・・はまだ分かりません。もう少し詳しく見てみますと、アジア経済というメディアだけ「年200万ウォン」としていますが、住んでいる地域によって異なるようです。ソウルから離れた地域ほど多い、と(多分、本人も細かくは考えていないでしょう)。AIやロボットが増えると、生産力は上がるけど仕事を失う人が増えるから、その分を基本所得でなんとかするという趣旨です。支給は「地域通貨」を使う、とも。ある村の住民たちに15万ウォンずつ支給したら出生率が上がった、などを事例としていますが・・本当にその金額によって出生率が上がったのでしょうか。ちょっと安すぎないか、そんな気もしますが。以下、<<~>>で引用してみます。
<<・・李在明共に民主党代表候補が「基本所得を導入し、日光・風を利用した収入が増えればいくらでも幸せに暮らせる」とし「このようにすれば(都市へ行った人口が)また戻ってくるだろう」と主張した。李候補は3日、全北・・(※地名省略)・・大学文化体育館で開かれた党代表・最高委員選出忠北地域合同演説会で「全国一人当たり予算が5000万ウォンだが(全北)ムジュの場合は一人当たり予算が2200万ウォン」とし、基本所得を支給し、ソウルからの距離が遠いほど、相対的に多くの金額を支給する方法で韓国の未来の基本社会を準備しなければならない」と述べた・・
・・李候補は「京畿道の清山面で1人当たり15万ウォンずつ基本所得支給したところ、減った人口が増えた。ソウルに行って(人口が減った)地方の都市がすべて台無しになっているが、このように、新しい道を作ることができる」とした。候補は「人工知能(AI)・ロボットが人の雇用に代わって生産力は大きく向上するが、人々は雇用を失って所得を得ることができなくなる」とし「この膨大な生産力で国民の基本的な生活、基本所得、基本的な住居・医療・金融などを担当する社会になるしかない」と説明した。それとともに「何もしないでいると、途方もない対価を払うだろう。これを機会にしなければならない」と話した(マネートゥデイ)・・>>
李在明氏が文在寅前大統領と仲がいいかどうかは別にして、考えはやはり同じだな、と思いました。ほとんど話題になることはありませんでしたが、文大統領は包容国家というものを目指していました。人の人生全てにおいて国家が責任を持つ(全員を国が『包容』する)という、いわば「超・大きな政府」構想です。就任してからあまり経ってない、2018年11月28日のソウル経済の記事を読んでみると、これは「包容的成長」という概念を間違えたのではないか、そんな指摘もあります。年金基金の運用などで福祉にも気を使う包容的成長(inclusive growth)は、文大統領が話した包容国家というものとは根本的に異なるものだ、と。あくまで「今の時点で」の話ではありますが、次は政権交代が予想されています。多少路線が異なるように見えでも、結局は同じ、一つ前のエントリーのものも含めて同じ線上にある、ということでしょう。
<<・・先日、ある国策研究院長に会って、関心事を尋ねてみたら、包容国家を研究するようにと(※政府から)言われて、困っているという。これは意外な話だった。政府の新しい国政哲学的である包容国家の具体的な理論と実現の方策を作成したレポートを提出するよう、上部からの指示が、各国策研究所に下ったのだ。彼はタスクフォースを作成して研究を促しているが、成果が簡単に出ず、頭がいたくなるだけだという。世界的に先例がない理論であるうえ、概念さえよくわからないので、研究の方向を決めることすら難しいそうだ。そして、彼は一言付け加えた。 「『包容国家』と『包容的成長』は、違うと思いますけどね」(ソウル経済)・・>>
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