金利引下げの布石か・・韓国の各銀行がローンの条件を大幅に強化、『家を借りる制度』が事実上なくなるとの指摘も

韓国の各銀行が、ローンの条件を大幅に強化しました。各銀行がそれぞれ異なりますが、基本的には「1人で借りられる金額が少なくなる」路線です。マネーSなど経済メディアのシミュレーション結果だと、年収1億ウォンの人なら、いままでより銀行から組めるローン額が7000万ウォンぐらい減る、とのことです。他にも、「34歳以下は50年ローンが可能だったが、最大で30年までになる」とか、まだ確定ではありませんが「すでに住宅を所有している人の場合、ジョンセ(伝貰、保証金を預けて家を借りる制度)のためのローンにもDSRが適用される」などが話題になっています。分かりづらいけど、あとでちょっと説明致します。

DSRとは、年収において債務返済に使う金額の比率のことです。時期にもよりますが、韓国で家計債務のある人は平均で40%(年収の40%を返済に使っている)、クッキーニュースなど一部メディアの分析ですが、宅ローンでは60%超えだと言われています(2022年12月26日)。まず、家計債務が増えすぎたことがもっとも大きな理由でしょうけど、金利引下げの下準備ではないのか、と私は見ています。金利が下がると、家計債務はもっと増える可能性が高いからです。ただ、いま金利が下がったとして家計債務のリスクは減るのかというと、そうでもありません。だからそのために、事前に金融当局が手を打ったのでしょう。いつものこと、表向きは「銀行の自律」としながら。

 

個人的に、何かの政策が必要だとは思っています(政策の方向性はこれで合っている)。ただ、これでどこまで効果があるのかは分かりません。『借りられなくなった人たち』が、もし自転車操業中だったなら、その人たちはどうなるのか。第2金融圏(ノンバンク)や第3金融圏(合法貸金業者)が元気だった頃ならわかりますが、いまはどうでしょうか。特に個人的に気になったのが、ジョンセDSRです。まだ未確定ではありますし、やるとしても「すでに住宅を所有している人」に限ってのものではありますが。これ、前から「DSR制度の適用が必要だ(年収に応じて許可すべきだ)と指摘されてきました。実はDSRといっても、韓国の場合は『抜け道』が多いのが特徴です。代表的なのが、ジョンセのためのローン、そして中途金ローンなどです。たとえばマンションを購入したとき、契約金、中途金、残金の順で支払うことになりますが、その中途金(※結構金額が大きい)のためのローンにはDSRが適用されません。

 

ジョンセについてよく出てくる話ですが、まず、1・「Aさんが、銀行から住宅ローンを組んで、家を買います」。それから、2・「大家になったAさんは、入居者Bさんに保証金を預かって、家を貸します」。でもそれだと大家Aは住むところがなくなるので、3・「Aさんもまた別の人、たとえばCさんかた家を借ります」。この際、ジョンセ保証金ローンをさらに受けることになります。DSR関連適用がないので、返済能力が足りなくてもローンが組める場合がほとんどです(もちろん人にもよりますが)。Bから預かった保証金は、投資などに使ってしまうのが一般的です(Bの契約が終わるとまた次の入居者から保証金を預かって、それでBの分を返す)。このシステムにおいて、「住宅所有者のジョンセ保証金ローンにDSRを適用する」となると、Aさんは「3」ができなくなります。朝鮮日報などは、これで、事実上、ジョンセ制度そのものが消えるだろうと予想しています。以下、<<~>>が引用部分となります。

 

<<・・不動産市場では、ジョンセ貸出のDSRが施行されれば・・・・市場に大きな影響があるだろうと見ている。特に低所得層にとって影響が強いという懸念が大きい。すべての融資の月額償還額を所得水準に合わせるようにするのが、DSRのメインだからだ。パクハプス、コングク大学不動産大学院兼任教授は「ジョンセまでDSRを適用することは、家計債務の増加を防ぐという名分はあるかもしれないが、政府の主政策目標である低所得層住居安定にはそぐわない」と話した・・・・ジョンセローンDSRが施行されれば、急激な月貰(※他の国にも多い、普通に月々の家賃を払うタイプ)化で、ジョンセ制度自体があやういという意見も出た。マイホーム作りの梯子とされるジョンセ制度が消えるわけだ・・・・ハミョンジン、ウリ銀行不動産リサーチ長は・・・・「家を住宅担保ローンで買ってから、ジョンセで貸し、自分(※大家)はジョンセローンを受けて他の場所で住むことができなくなる」と述べた(朝鮮日報)・・>>

 

引用部分の最初を読んで、「じゃ、いまは『合わせて』いないという意味かな」と思いましたが・・確かに、いままで「個人同士の取り引き」ということで、家計債務はもちろんどんな統計にもカウントされなかった、ジョンセ保証金。どうせ銀行から借りたものだから家計債務に含まれている部分も多いでしょうけど、これは預かったものであり、契約(普通は2年)が終われば入居者に返す『債務』です。文在寅政権からずっと議論されていた、ジョンセのDSR適用。韓国にしかないと言われていたジョンセ制度が、家計債務の『構造的変化』とともに、ついに消えていくのか、それとも『庶民のために~』などの理由で今回も見送りになるのか。

また、50年ローンがどれくらいあったのか分かりませんが、結構あった(30年限度にすることが結構話題になっています)みたいで・・それもまた、どうかなと思いました。京郷新聞(2023年7月17日)の記事によると、韓国の家計債務の53.7%は、満期一括償還方式です。すなわち、毎月「利子」だけ支払い、「元金」は返済していません。満期が来たら、元金は一気に返済する(一括償還する)タイプのことです。50年ローンのどれくらいが満期一括償還式なのかも分かりません。単に「ちょっとそう思った」レベルの話ですが、2000年代から家計債務急増が問題視されました。となると、満期一括償還式の中には、まだ満期が1回も来ていない、ということになります。2050年あたり、なにが起きるのか・・ちょっと気になりました。以上、退屈な内容でしたが、韓国社会のお金の流れを大いに変える(止める?)変化とも言えるので、エントリーしてみました。

 

 

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ブログのカテゴリー、タグ分けを細分化しました。本エントリーの場合は「韓国経済の話」になります。ただ、細分化は2024年8月19日からで、その前はほとんどが『ユン政権の大冒険』『文在寅政権の行く末』あたりにあります。ブログ内検索なども併用してくださるようお願いいたします。

 

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