事実上の傘下財団だという話もありますが、韓国政府(文化体育観光部)指定団体に、文学芸術著作権協会(以下、協会)というものがあります。主な仕事は、例えば教科書など公共目的の出版物などが、著作権料を支払っていないことが分かった場合、その出版社から補償金をもらって、それを作家に渡すことです。教科書に載っている作品に著作権料未支給があるのか、ということからしてすでに問題ですが・・とりあえず、作家などを保護する趣旨で作られた政府傘下機関の一つだと見ていいでしょう。で、韓国日報(10月17日記事1、10月30日記事2)が取材してシリーズ記事を出していますが、この団体がちゃんと作家に金を渡さないでいて、ノーベル文学賞を受賞したハンガン(韓江)氏にも、長い間(引用部分にはありませんが記事によると20年間)支給していないとのことです。
取材に対して協会は、『教科書(など)に載せなかった』としていましたが、取材結果、事実と異なると分かりました。すると、『連絡先を知らなかった』と言い出した、とのことです。なぜこんなことになったのか。それは、協会が出版社から補償金をもらってから、作家がその補償金を受け入れなかった場合、または5年以上連絡がない場合、協会がそのお金を『公益のために』使うことができます。記事によると、公益といっても、協会関係者たちの温泉旅行などに使われたそうです。で、5年というのがポイントでして。普通なら、作家に連絡して(作家がその事実を知ってから)5年間返事をしなかった場合のことですが、そもそも作家に連絡をしなかった(連絡せずに5年経ったので、勝手に使った)というオチです。以下、<<~>>で引用してみます。
<<・・ノーベル文学賞受賞者である小説家韓江(※ハンガン)が教科書や学校の授業に使用した作品に対する著作権補償金を、これまでただ1回も受け取れなかったことが確認された。教育目的で使用された著作権に対する補償金の支給を担当する韓国文学芸術著作権協会は「作家の連絡先がわからない」と理由を述べた。補償金は5年以上経つと協会が利用可能だ。17日、キム・ジェウォン議員によると、協会はこれまで教科書や授業目的、授業支援目的で使用したハンガン作家の作品に対して著作権補償金を1件も支給していないことが分かった。協会はホームページを通じてハンガン作家の作品使用事例として、少なくとも34件(教科書11件、授業目的4件、授業支援目的19件)を摘示している・・
・・協会は「補償金分配のためには権利者の個人情報と受領同意が必要で、2017年から出版社を通じて補償金受領について案内してきた」としながらも「作家の連絡先がわからなかった」と説明した。著作権料の未払いは漢江作家だけではなかった。最近10年(2014年~2023年)支給していない補償金が総104億8700万ウォンに達すると集計された。毎年10億ウォンほどの補償金が、作家に渡されずに協会に『積まれる』という話だ。補償金が受け取られずに5年以上が経過すると、協会は文化体育観光部承認の下で公益目的で使用が可能である。これにより、10年間協会が使用した補償金は約138億ウォンとなる(韓国日報記事1)・・>>
<<・・協会は、信託会員団体に数千万ウォン台の事業を与え、彼らは、代わりに協会に高額の信託仲介手数料を出す、「自分たちだけで決めたルール」で教科書著作権補償金を使用してきた。事例を見てみると、データベース(DB)を構築すると予算をもらっては、団体で温泉旅行を行ったり、伝統音楽公演を開くなどに予算を使った。それにもかかわらず、すべての監査で優れた成績を受けたことも分かった。協会も政府の監督も、機能していなかったわけだ。文学芸術著作権協会は、教科書など教育または公共目的で無断使用された作品に対する「著作権補償金」を作家に支給するよう、政府が指定した団体だ。
作品が作家の許可なく教科書などに載せられる場合、出版社から補償金を受け取り、その後に著作権者の申請がある場合、これを支給する形で運営される。現行法上、著作権者が5年以上補償金を求めなかった場合、「公益目的」に限って協会が使用することができるが、これによって、協会が補償に消極的に出てくる問題点がある。協会は、先立ってハンガン作家にも「連絡先を知らない」という理由で補償をせず、数十年前から「作品を使ったことがない」と偽の案内をしてきたと、韓国日報の報道を通じて明らかになった(韓国日報、記事2)・・>>
11日にも、自治体が(右側の)市民団体の話だけを根拠にハンガンさんの本を学校の図書館から廃棄させたという話を紹介しましたが・・今回もまた、『大変だな』としか思えません。作家の考えがどうであれ、そういうのは別の話。システム的な部分でこれでは、本当に大変でしょうね。マスコミがちゃんと見つけたのが、不幸中の幸いです。ハンガンさんがノーベル文学賞を受賞しなかったら、こんな記事もなかったかもしれませんが。
本ブログではしばらく取り上げていませんが、賃金未払いがまだまだ大きな話題になっています。去年もすごかったけど、今年は上半期だけで1兆ウォンを超えており、年間データでは圧倒的に新記録になるだろう、とかそういう内容です。その規模は、日本の十数倍とも、人によっては100倍とも言われています。複数の関連記事に共通するのは、『根本的に、人に代価を与えることの重要性そのものを、ちゃんと認識していない』という点です。相手がバイトでも作家でも、この考えは同じなのでしょうか。
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