12日(「親書」関連)にもお伝えしましたが、李在明大統領は、11日から北朝鮮への「拡声器」放送を止めました。これ、単に北朝鮮に向けて大きな音を流すというものですが、それが北朝鮮の「体制(この場合、統治システム)」に関するもの、そして韓国の経済発展とか、そんなものなので、北朝鮮はこの拡声器をかなり気にしています。北朝鮮側もまた、韓国側に向けて、「黒板を鉄で擦る音」などを大音量で流していて、軍事境界線から近い地域の住民たちは、酒に酔わないと眠れない日々が続いている、そんなところでした。これを止めたわけですが、同じ理由で北朝鮮側が強く反応してきた、伝単、すなわち対北ビラについても、「事後に処罰する」とのスタンスを明らかにしました。
文在寅政権でも同じことがありましたが、これは風船などで、北朝鮮へビラを飛ばすもので、内容は先の拡声器と同じく、統治体制への問題を指摘するものが多く、中には、金正恩委員長の「白頭血統(ロイヤルファミリー)」としての資格を指摘する内容もあるとのことです。最近はUSBメモリーなども飛ばしているそうです。この前、北朝鮮の無人機がソウルまで入ってきたり、汚物風船が首都圏ほぼ全域に飛んできたりしましたが、その直接的な原因も、このビラだったと言われています。しばらくの間、許可されていましたが、今回、李在明政権が始まってすぐ、また中止となったわけです。YTN、 韓国日報(共に15日)など複数のメディアが、結構大きく取り上げています。対北ビラがどれだけ効果的なのかの評価とは別にして、政権の路線は何も変わってない、とすぐに分かるくだりであります。ちなみにこれ、2023年に、対北ビラは憲法上の権利であると、憲法裁判所の判断がありました。以下、<<~>>で引用してみます。
<<・・大統領室が週末夕方、予定にもなかった資料を出して、民間団体の対北ビラ散布事実を公開しました。土曜日の夜明け、江華島から北朝鮮にビラを飛ばした、ということです。統一部など関係省庁ではなく、大統領室が直接出てきたのは、それだけ今回の状況を厳重に見ていたという意味だと解釈されます。実際、政府は政権交代後、対北ビラ散布の中断を、民間団体に繰り返し要求してきました。接境地域(※南北軍事境界線に近い)住民の日常と安全のため、朝鮮半島の軍事的緊張を高めてはいけないという趣旨でした・・
・・政府は、このような方針を守らなかった該当団体を、関係法令違反の有無によって厳重に措置すると警告しました。イ・ジェミョン大統領も、力を尽くしています。すべての関係省庁に、対北ビラ散布の予防と事後処罰対策を設けるよう指示しました。政府はこれによって16日統一部主管で会議を開き、総合対策を議論することにしました(YTN)・・>>
<<・・李在明大統領が、対北ビラ散布時の事後処罰対策を指示したことと関連して、クォンヨンセ国民の力議員が15日、「憲法裁判所の決定を違反し、他の法律で処罰するのは憲法精神を明らかに違反することだ」と強く批判した。クォン議員はユン政権の元統一部長官で、南北関係に関する政策を指揮していた。クォン議員はこの日、韓国日報との通話で、「憲裁が憲法を解釈し、対北ビラを送るのは表現の自由に該当すると決定した」と述べた。憲裁は2023年9月、裁判官7対2の意見で、対北ビラ散布を処罰する行為は違憲だと決定した。統一部は違憲決定が行われた後、ビラ散布に自制要求などはしなかった。クォン議員はその年7月まで統一部長官だった・・
・・李大統領が・・・・国務会議で対北ビラ散布と関連して関係省庁協議の下、航空安全管理法・災害安全法・高圧ガス安全管理法など法令違反の有無によって処罰を含む具体的な対応案を設けるよう指示したことについても批判の声を出した。クォン議員は「例えば高圧ガス安全管理法において本当の問題があり、それを処罰するのは別だが、法を手段として対北ビラ問題に利用するとなると、それは明らかに憲裁の憲法解釈に反するものだ」・・・・「もちろん南北関係を考慮して、対北ビラを控えてほしいと要請することならできるだろう。しかし、憲裁が判断したこともあるにもかかわらず、「この法律でダメなら別の法律で」強力に処罰するというのは、明らかに間違っている」とした(韓国日報)・・>>
多分、風船にガスを入れるための作業があるから、それが高圧ガス安全管理法の問題になる・・とかそんな理屈のようです。さて、選挙前には、文大統領の最大の業績だと(左派支持者たちが言う)「南北軍事合意」も復活させると言っていた、李大統領。どこまでできるのかはまだ分かりません。国会多数党だとしても、大統領選挙結果がそこまで安心できるレベルではなかったので。来年には、各自治体長を決める全国同時地方選挙があります。前回は尹政権が始まってからすぐだったこともあって、勢いに乗っていた保守側が勝利しました。ソウル特別市の市長も右側の人が当選しましたし。今回、国会だけでなく(国会議員選挙は2028年にあります)、自治体など地方選挙でも勝利を目指す共に民主党及び左側としては、いま保守側が結集しそうな動きは控えたいはずですが・・はてさて、どこまでできるのでしょうか。
ここからはいつもの告知ですが、新刊のご紹介です。本当にありがとうございます。<THE NEW KOREA(ザ・ニューコリア)>という1926年の本で、当時の朝鮮半島の経済・社会発展を米国の行政学者が客観的に記録した本です。著者アレン・アイルランドは、国の発展を語るには「正しいかどうか」ではなく、ただ冷静に、データからアプローチすべきだと主張し、この本を残しました。どんな記録なのか、「正しい」が乱立している今を生きる私たちに、新しい示唆するものはないのか。自分なりの注釈とともに、頑張って訳しました。リンクなどは以下のお知らせにございます。
・皆様のおかげで、こうして拙著のご紹介ができること、本当に誇りに思います。ありがとうございます。まず、最新刊(2025年3月2日)<THE NEW KOREA>です。1920年代、朝鮮半島で行われた大規模な社会・経済改革の記録です。原書は1926年のものです。 ・準新刊は、<自民党と韓国>です。岸田政権と尹政権から、関係改善という言葉が「すべての前提」になっています。本当にそうなのか、それでいいのか。そういう考察の本です。 ・既刊として、<Z世代の闇>も発売中です。いまの韓国の20代、30代は、どのような世界観の中を生きているのか。前の世代から、なにが受け継がれたのか。そんな考察の本です。 ・詳しい説明は、固定エントリーをお読みください。・本当にありがとうございます。