(ラノベタイトル風に)「盧武鉉政権で均衡的実用外交が失敗したので、内容は同じだけど実用外交と呼ぶことにしました」

で、シリョン(実用)主義とか外交とか、いろいろ盛り上がっていますが、ここであの盧武鉉大統領が主張していた、東北亜均衡者論を振り返ってみたいと思います。日本のネットではバランサー論という表現が多かったと記憶しています。実はあれ、正式には「均衡的実用主義」という名称でした。これは、当時の記事(政府発表を引用するもの)を見れば、すぐに分かります。盧武鉉政権では、明らかに「バランサーになる」という意味を強調し、この「東北亜均衡者論」というのが強烈すぎで均衡者(バランサー)の部分だけがクローズアップされていましたが、実はバランスを取るというのは「柔軟に対処する」という意味なので、実用主義、実用外交という呼び方をしていたわけです。韓国では一般的に、実用主義というと「効率的に」「柔軟に」という意味です。

そうですね、これが外交政策関連だと「国益中心」という意味にもなります。すなわち、盧武鉉政権当時は、「均衡者(バランサー)」と「実用外交」が、ほぼ同じ意味でした。思えば、「安米経中」という言葉のスタート時点になったとも言える、この「均衡的実用主義外交」。私は、米国のことを気にして「均衡」の部分を消して、実用外交と呼んでいるだけではないのか、と思っています。当時の記事などを部分引用しながら、当時のバランサーがどういうものだったのか。どの側面が今と同じで、また違う側面はどこなのか、いろいろ振り返ってみたいと思います。




まず、李大統領の就任演説から、彼が目指している「実用」について、です。本ブログで本題にしたいのは外交関連ですが、他の分野でも、大まかに3つの「政府が目指す形」として、実用という単語がでてきます。一つ目は、「正義たる統合政府」と「柔軟な実用政府」になる、という内容です。なぜこれが一緒に出てきたのかと言いますと、左か右かにこだわらず、実用さを重視する柔軟な態度を取り、左右を統合する正義を実現する、という意味です。ツッコミは略します。2つ目は、「実用的市場主義政府」です。企業にできる限り介入しない、という意味です。早くも「バッドバンク作るために民間金融機関の協力(債務削減、費用出捐など)」を要求しているのに、どういうことか・・な気もしますが。

最後が外交関連で、ここはちょっと引用してみましょう。 <<・・国益中心の実用外交を通じて、グローバル経済・安保環境大転換のピンチを、国益を最大化する機会にします。堅固な韓米同盟をもとに韓米日協力を固め、周辺国関係も国益と実用の観点から接近します。外交の地平を広げ、国際的位相(※地位)を高めて大韓民国経済領土を拡大していきます。尊敬する国民の皆さん、偉大な光の革命は、内乱終息を越えて、輝く新しい国を作るよう命じています(李在明大統領の就任演説文より)・・>>




左も右もないと言いつつ、さっそく光の革命(ろうそくデモ、朴槿恵政権)と内乱(尹錫悦政権)の、弾劾された右側の大統領二人を連想させるところが、さすがとしか言いようがありません。で、この引用内容からも、少なくとも外交、安保などにおいては、李大統領が主張する実用外交というのは、先に書いた「均衡的実用主義」であることがわかります。盧武鉉政権当時はどうだったのか。この内容がもっともわかりやすいのが、2004年3月4日マネートゥデイ『均衡的実用外交など4つの安保戦略を設定』という記事です。同日に盧武鉉政府が発表した、「国家安保戦略の4大基調」についての内容です。以下、<<~>>で引用します。

<<・・4大国家安保戦略基調は、平和繁栄政策の推進、均衡的実用外交の追求、協力的自主国防推進、包括安保志向だ。 3大戦略課題は、北朝鮮の核問題の平和的解決と朝鮮半島の平和定着構築、韓米同盟と自主国防の並行発展、南北共同繁栄と北東アジア協力主導であり、2大基盤課題は、全方位国際協力の追求、対内的安保基盤の拡充だ。国家安全保障会議(NSC)常任委員会はこの日、統一部、外交通商部、国防部、国家情報院など安保関係省庁と共同作業を通じて参加政府の安保政策構想を総合整理した「平和繁栄と国家安保」冊子を発刊し、このような原則を発表した(マネートゥデイ)・・>>

 

もうちょっとだけ、時間を進めてみましょう。約1年後、この基調が、「東北亜均衡者論」という形で大きな話題になりました。外交の領域では、2005年3月25日文化日報『盧大統領東北亜均衡者論、論争に』と同年4月12日デイリアン『東北亜均衡者論と米韓同盟は矛盾』など複数の記事によると、この均衡者という言葉が、「状況によって、同盟を変える」という意味もあるということでして。当時、左側の国会議員たちも「なぜそこで均衡者という言葉を使うのか。それだと誤解される恐れがある」と指摘していました。実は、誤解ではなく、そのままの意味だったと思いますが。両紙から、ちょっとずつ引用してみます。

<<・・盧武鉉大統領が「北東アジア均衡者者」について初めて言及したのは先月25日(※2005年2月25日)の国会国政演説である。盧大統領は「我が軍隊は、自ら作戦権を持つ自主軍隊として北東アジアの均衡者として北東アジア地域の平和を堅固に守るだろう」と話した。盧大統領は引き続き3月8日にも、空軍の任管式で「今、韓国軍は朝鮮半島だけでなく東北アジアの平和と繁栄を守ることを目指している」とし「東北アジアの勢力の均衡者として、この地域の平和を堅固に守るために東北アジアの安保協力構造を作る上で、緊密に強化していくだろう」と話した(文化日報)・・>>

 

<<・・「開かれたウリ党」のイ・ガンレ議員は、「均衡者」という用語の問題点を指摘し、「国際政治学において均衡者とは、国家間の軍事バランスが崩れたときに戦争が始まると見て、力のバランスが崩れないように、相手国を変えながら軍事連合を変え、力のバランスを保とうとする国のこと」とした。イ議員は引き続き「北東アジアの均衡者論の場合、状況によって軍事同盟を変えるというのではなく、北東アジアの安定にリスク要因を中国・日本の覇権競争だと見て、韓米同盟を土台に日本と中国の間での均衡者の役割を果たすということだが、様々な誤解を誘発する可能性がある用語だ」とした・・・・このような指摘について李海瓚国務総理は「北東アジアの均衡者になるということは、私たちの力を過度に設定して意思決定権を主導的に行使するというのではなく、私たちの影響力の分だけ、力を行使するということだ」とし「基本的に私たちの影響力が大きくなりつつあるので、北東アジアでの主導的役割が重要だ」と述べた(デイリアン)・・>>

 

よく読んでみると、なぜか「日本と中国の覇権競争」という言葉が出てきます。そして、「それは問題ないのに、米韓同盟関連で誤解される可能性がある」という主張になっているから、もう笑うしかありません。単に北朝鮮側への宥和政策がしたくて、米韓同盟の影響力を弱くする政策がしたいだけであり、こういうのはすべて偽りの名分にすぎません。それに、強いて言うなら、それは「日米(自由民主主義陣営)と中国の競争」でしょう。このように、結局「東北亜均衡者(バランサー)論」というのは、結局は米韓同盟の弱体化と表裏一体のように進むしかないもので、その元の名称は「均衡的実用主義」でした。

いま、盧武鉉政権の外交を振り返ってみると、そこに「日本と中国の競争」はあまり関係なかったとしか思えません。最近は、よく米中覇権競争という言葉を耳にします。その中、「日米韓協力を通じての実用主義」を掲げている、李在明大統領。その実用主義は、本当に米中の(詳しくは自由民主主義陣営と中国の)対立は、関係があるのでしょうか。単にそれを理由に、引用部分でイ議員が主張した「言葉の意味のままの均衡者」を目指しているのではないでしょうか。「均衡的実用」の評判が思わしくなかったから、単に「実用」という呼び方にして。

 




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