李在明政権の対北宥和政策が、着々を進んでいます。最近、支持率が下がりつつあるので、来年の地方選挙が終わるまでは、なにか大きな成果を急ぐことはないだろう、と私は見ています。というか、文政権のときは、米朝首脳会談の仲介(当時はうまく仲介できていると思われていました)に比べると、いまの李大統領に対北融和政策を強く推進できる何かのきっかけ、名分、力、そんなものはありません。しかし、土台というか、前任の尹錫悦政権で行った対北政策を「なかったことにする」動きは、確実に存在します。対北ビラ中止、開城工業団地や観光再開の動きなどがそうです。そして、文化日報(18日)などによると、去年に尹錫悦大統領が8月15日の演説で発表した「815統一ドクトリン」は、破棄する手続きに入りました。
これもまた、これで何か大きな動きがあるのか、といいますと・・それほどでもありません。統一ドクトリンというのは、韓国が主導して、事実上の吸収統一(南が北を吸収する)を成し遂げるという内容のもので、文在明政権のものとは明らかに異なる方向のものでした。ただ、その後になにかこれといった政策が出たわけではなく、4ヶ月も経たずに戒厳令事態になって、率直に言って「そういえば、尹大統領の統一ドクトリンはなんだったっけ」と、私も詳しくは覚えていません。ただ、北朝鮮が南北を「2つの国と見る」と路線変更した今になって、実はもっとも北朝鮮と対立する内容でもあります。逆に、今の李政権が掲げる、「北朝鮮の体制を認める」「吸収統一などは考えていない」とする政策は、相性がいいと言えるでしょう。それを強調したかったのかもしれません。
なにせ、8月15日に平和共存を主張しましたが、3日経っても、北側からこれおいって声明などが出ていません。だから「もう少し褒められそうなこと」をしたかったのかもしれません。また、17日にもお伝えしましたが、日本、米国を訪れる日程とほぼ同じ時期に、韓国政府の「特使団」が中国を訪れます。その際、習近平主席への親書を伝達する、とも報じられています。習近平との面談がまだ決まったわけではありません(中国外相を通じて伝達される可能性もあります)が、面談なら普通に可能かもしれません。習主席は、韓国側の人とも何度も会っています。その際にいつも「訪韓する」というニュアンス(実際に訪韓するとは言わない)で話し、韓国メディアが大騒ぎし、それからしばらく経っても進展なし、というのがいつものパターンです。以下、<<~>>で引用してみます。
<<・・李在明大統領は18日、「既存の南北合意の中で、可能な部分から段階的な履行を準備してほしい」と関連省庁に要請した。政府は尹錫悦前大統領が提示した「815ドクトリン」は破棄する方針だ。李大統領はこの日午前、ソウル龍山大統領室庁舎で開かれた国務会議で「今必要なのは、鉄壁のような備えを維持するとともに、その背景の上で、緊張を下げるために着実に一歩を踏み出す勇気」とし「小さな実践が重なれば、信頼回復につながるだろう」と強調した。続いて「急変する対外条件の中で、国益を守り、外交的空間を広げていくためには、南北関係がとても重要だ」とも述べた。
これに先立ち、李大統領は8月15日の演説で「南北間の偶発的な衝突防止と軍事的信頼構築のために9199軍事合意を先制的・段階的に復元していく」と明らかにした。 919軍事合意は、文在寅政権の時である2018年に、軍事的緊張を緩和するために締結された。当時、合意書には「軍事境界線一帯の軍事練習中止」「軍事境界線上空飛行禁止区域設定」「非武装地帯(DMZ)内監視警戒所(GP)を全部撤収するための試験措置として相互1㎞以内に近接した南北GP撤収」など、板門店共同警備の非武装化などが含まれた。軍事合意とは別に、韓国政府が北朝鮮に対する人道的支援を再開する可能性もある。
前任政権の統一ドクトリンは破棄の手順に突入した。統一部はこの日、マスコミ公告で李大統領の8月15日演説と関連して「尹錫悦政権が出した統一ドクトリンの、吸収統一と『自由の北進論』を廃棄し、平和共存の対北政策基調を明らかにしたもの」と明らかにした。統一部関係者はこの日のブリーフィングで「北朝鮮が韓国大統領の演説に対して12日後に反応した事例もある」とし「時間を置いて、見守る必要がある」と説明した。尹前大統領は昨年、国内自由統一力量の培養を核心とする「3大統一ビジョン」を提示した(文化日報)・・>>
ここからはいつもの告知ですが、新刊のご紹介です。本当にありがとうございます。<THE NEW KOREA(ザ・ニューコリア)>という1926年の本で、当時の朝鮮半島の経済・社会発展を米国の行政学者が客観的に記録した本です。著者アレン・アイルランドは、国の発展を語るには「正しいかどうか」ではなく、ただ冷静に、データからアプローチすべきだと主張し、この本を残しました。どんな記録なのか、「正しい」が乱立している今を生きる私たちに、新しい示唆するものはないのか。自分なりの注釈とともに、頑張って訳しました。リンクなどは以下のお知らせにございます。
・皆様のおかげで、こうして拙著のご紹介ができること、本当に誇りに思います。ありがとうございます。まず、最新刊(2025年3月2日)<THE NEW KOREA>です。1920年代、朝鮮半島で行われた大規模な社会・経済改革の記録です。原書は1926年のものです。 ・準新刊は、<自民党と韓国>です。岸田政権と尹政権から、関係改善という言葉が「すべての前提」になっています。本当にそうなのか、それでいいのか。そういう考察の本です。 ・既刊として、<Z世代の闇>も発売中です。いまの韓国の20代、30代は、どのような世界観の中を生きているのか。前の世代から、なにが受け継がれたのか。そんな考察の本です。 ・詳しい説明は、固定エントリーをお読みください。・本当にありがとうございます。