「あ、やはり国会を通過したか」、といったところですが・・政権交代のときからほぼ決まっていたとはいえ、「あの法案」が国会本会議を通過しました。韓国関連ニュースでよく出てくる「黄色い封筒法」のことです。2023年、同じ法案が国会を通過したとき、本ブログでもその主な内容を取り上げたことがあります。2023年当時は、尹錫悦大統領が拒否権を行使しましたが、今回は最終的に成立されるでしょう。簡単に言うと、現与党の共に民主党の支持勢力である労働組合のパワーアップ案件です。パワーアップというか、企業側が、違法的なストなどに対して、これといった措置を取ることが難しくなります。一部は「先進国には似たような法案がある」とも主張していますし、実際、欧米の一部の国には似たような法案が存在しますが、その安全装置となる法案(雇用されている人たちだけでなく、企業側を守るための法案)も用意されているので、そもそも土台が違いすぎる、という指摘も出ています。
たとえば、Aという大企業があって、B社やC社など多くの企業が、A社から下請けを受けていると仮定します。いままでは、A社は、A社の労働組合とだけ交渉すれば、それでよかったです。でも、黄色い封筒法では、B社やC社の労働組合も、A社を相手に労働争議を起こすことができます。韓国の場合は、大企業(財閥)が他国より強力ということもあって、無数の企業が大企業1社の下請けを受けています。特に、自動車、造船(造船分野は特に、トランプ大統領と協力するとしたばかりです)分野などでは、大企業1社が、無数の企業を相手に団体交渉をしなければならなくなる、と言われています。大手造船社の場合、団体交渉対象になる会社が2000社を超えることになる、という話もあります。さすがにそのすべてを一気に交渉しなければならないわけでは・・多分、ない、と思われますが。
また、労働争議は現状、賃金・労働時間・福祉・解雇その他の待遇など、『労働条件を決定する過程』に対してのみ可能ですが、黄色い封筒法では、「労働条件の決定過程」ではなく全般的な「労働条件」を対象にしています。ノーカットニュース(2023年11月12日)はこれについて、「リストラによる『結果』も労働条件として争議行為が可能になる(リストラ決定も「労働条件の全般」に含まれる)」としています。場合によっては、リストラによって労働者が受けた影響についても、その補償・賠償などを求める労働争議が可能になる、とも。
また、企業が違法的なストなどに対して賠償を請求することも、事実上、難しくなります。加担者それぞれの帰責事由や、どれだけ積極的に参加したかなどによって責任範囲を別々に(労働組合そのものではなく、各個人に対して別々に)訴訟するようになります。朝鮮日報(2023年11月10日)は「ストに誰がどれだけ責任があるかを企業が区別することは容易ではない。黄色い封筒法は、企業の請求自体を難しくしているだけだ」、としながら、まるで労働者全般のための法律のようになっているけど、実は労働組合関連の損害賠償請求は99.6%が民主労総を相手にしたものである、と指摘しています。聯合ニュース(今日、8月24日)は関連記事で、「結局、強い労働組合を意識し、韓国に投資してきた外国企業が離れていくことになり、韓国企業がグローバルサプライチェーンから外されることになるだろう」という声を報じています。以下、<<~>>で引用してみます。
<<・・黄色い封筒法が、韓国の代表産業である自動車と朝鮮、鉄鋼などに特に大きな影響を及ぼすという指摘も出ている。これらの企業は、製造過程で数百の協力会社が関与するため、製造過程のすべての下請業者と法的紛争を経験しなければならないし、それだけでなく、労組が不法行為をしても、その賠償請求が制限され、会社が費用をそっくりそのまま抱え込まなければならないという説明だ・・・・黄色い封筒法の国会本会議通過で、外国投資企業の「エクソダス」が発生するだろうという見通しも出た。グローバル企業は、企業経営権の安定性を核心投資条件として見ているのに、黄色い封筒法がこれに大きな影響を与えるため、韓国経済の投資魅力度を下げることになるだろう、という懸念だ。米国商工会議所は最近、「黄色い封筒法が元請に対する過度な責任転家と法的な不確実さの拡大を招く可能性がある」と指摘したことがある。
韓国最大の外国投資企業の一つである韓国GMも、雇用労働部が黄色い封筒法に対する企業界の意見を聴取するために設けた懇談会で、「本社から、事業場(※韓国GM)に対する再評価がなされるだろう」と、法案の再考を要請した、と伝えられている。ある財界関係者は、「一番怖いのは、企業が静かに韓国を離れるだろう、ということだ」とし、「今後の黄色い封筒法の通過に伴い、企業経営が影響を受ける事例が出てくれば、外国企業はもちろん、韓国企業もその不確実さを減らすために、対策を設けるしかないからだ」と話した。続いて、「労組リスクの大きい韓国は、サプライチェーンから徐々に外されていくだろう」と付け加えた(聯合ニュース)・・>>
ここからはいつもの告知ですが、新刊のご紹介です。いつも、ありがとうございます。今回は、<韓国リベラルの暴走>という、李在明政権関連の本です。新政権での日韓関係について、私が思っていること、彼がいつもつけている国旗バッジの意味、韓国にとっての左派という存在、などなどを、自分自身に率直に書きました。リンクなどは以下のお知らせにございます。
・皆様のおかげで、こうして拙著のご紹介ができること、本当に誇りに思います。ありがとうございます。まず、最新刊(2025年8月30日)<韓国リベラルの暴走>です。韓国新政権のこと、日韓関係のこと、韓国において左派という存在について、などなどに関する本です。・準新刊は<THE NEW KOREA>(2025年3月2日)です。1920年代、朝鮮半島で行われた大規模な社会・経済改革の記録です。原書は1926年のものです。・既刊、<自民党と韓国>なども発売中です。岸田政権と尹政権から、関係改善という言葉が「すべての前提」になっています。本当にそうなのか、それでいいのか。そういう考察の本です。・詳しい説明は、固定エントリーをお読みください。・本当にありがとうございます。