李在明政権の経済関連公約(いまは「政策」ですが)の中でも特に大きいのが、いわゆる「消費クーポン」でした。日本でもよく見かける地域商品券、または特定の店でしか使えない(年間売上が一定金額以上の店では使えない)チェックカードのような形になっていて、簡単に言えば「ある程度の制限はあるが、現金バラ撒き」政策です。相応の経済的な効果はあるでしょう。使う人たちがいれば、その分、店側の売上も増えるでしょうし。でも、毎月出るわけでもないし、その効果が長く続くとは思えません。そこで、政府側、というか政府政策を支持する人たちは、「消費クーポン政策は、雇用を増やす効果がある」と主張してきました。金が回るから、雇用も増えるだろう、という理屈です。
ちょっと前に、「ホテル経済論」というものを紹介したことがあります。これは李在明大統領がまだ候補だったときに話した内容ですが、あるホテルに予約金10万ウォンが入りました。ホテルオーナーは、家具店の店主に、未払いだった10万ウォンを払いました。家具店の店主も、その金でチキン屋の店主から借りていた10万ウォンを返しました。チキン屋の人も、文房具店から借りていた10万ウォンを返済し、文房具店の店主はホテルのオーナーから借りていた10万ウォンを返しました。こんなふうにお金が「まわる」から、もしあとでそのホテルの予約がキャンセルされ、ホテルが予約金10万ウォンを(泊まる予定を取り消した人に)返すことになっても、ものすごい効果がある、というのです。
そもそも「全額」がそうやって簡単にまわるのか、と言ってしまえばそれだけで終わる話ではありますが、見方によっては「消費クーポンで雇用が増える」というのも、似たような観点かもしれません。消費クーポンによって景気がよくなる業種は限られるけど、そこから雇用が増えれば給料も支払われ、それがまた社会を巡る、というものでしょう。で、初めてその「雇用に関する成績表」が出ました。結果は、なんと1ヶ月(9月)で30万人も雇用が増えました。李有明大統領大勝利です。でも、中央日報(19日)などがデータを見てみたところ、ちょっと別の側面が見えてきました。
年齢代で、30代も13万3000人増えたものの、「60代以上の雇用」が多く、38万人以上も増えました。すなわち、「50代以下」で見ると、雇用が大きく減少したことなります。特に、青年層(15~29歳)で14万6000人も減少しました。韓国の青年雇用「率」は、17ヶ月連続で減少していて、これは「16年ぶりのこと」と言われています。この「全体雇用数は増えているのに、多くが60代以上」という減少は、韓国の雇用市場で、随分前から、文在寅政権からずっと言われていることです。しかも、増えた雇用も、そう良質のものではない、とのことでして。各メディアは、「これを『効果があった』と言えるのか」と疑問を提起しています。以下、<<~>>で引用してみます。
<<・・「高齢者主導成長」。最近、雇用市場の現実を要約してくれるフレーズだ。先月(※2025年9月)の就業者数が1年前より30万人以上増えたが、60歳以上を除けば、結果は逆になる。7万個近くの雇用が消えた。18日、国家データ処(※統計庁)の「雇用動向」統計を分析した結果だ。先月の就業者数は、前年比31万2000人増加し、19ヶ月ぶりに最大の幅で増加したが、実状は「からっぽ」だ。年齢帯別に就業者数の増減を見てみると、60歳以上(プラス38万1000人)と30代(プラス13万3000人)を除いた残りの年齢のすべてにおいて、雇用は減少した。
青年層(15~29歳)就業者が最も多く減少し(マイナス14万6000人)、40代(マイナス4万5000人)と50代(マイナス1万1000人)が後に続いた。特に、60代以上の高齢層以外の、50代以下の就業者数は、昨年同月と比較して6万9000人も減少した。高齢者雇用だけが好況に覆われただけで、雇用市場はまだまだ冬の状態であるわけだ。産業別に分けて比較してみても、流れは同じだ。先月全体、産業の中で保健・社会福祉サービス業の就業者数が前年比で最も多く(30万4000人)増えた。先月全体の就業者数増加幅(31万2000人)とほぼ同じ数である。保健・福祉業種を除くと、実際に増えた雇用数はほとんどないという意味だ(※保健福祉と書けばちゃんとした職業に見えますが、前から雇用統計の歪みになっていると指摘される『政府・自治体が簡単な仕事を高齢者にばら撒く』システムの多くが、この『保健福祉』に分類されます)・・
・・正規・高所得雇用が多い製造業分野の就業者は、1年で6万1000人減少した。農林漁業(マイナス14万6000人)、建設(マイナス8万4000人)、情報通信業(マイナス1万3000人)雇用も減少した。民生回復消費クーポンの効果で卸売・小売業(2万8000人)、宿泊・飲食店業(2万6000人)など関連業種の就業者が増えたが、保健福祉業での増加と比べるとそれほどでもない。チョドングン、ミョンジ大経済学科名誉教授は・・・・「福祉関連支出依存度が大きい高齢者の雇用以外には雇用が増えないのは、経済の基礎体力がなくなっているという意味だ。現政権になってから規制を強化する政策ばかり出てくるが(※労働組合に有利なものが多いとされています)、若い層の雇用、良質の雇用が生まれるように、成長に目を向けて実効性のある政策を出さなければならない」と話した(中央日報)・・>>
ここからはいつもの告知ですが、新刊のご紹介です。いつも、ありがとうございます。今回は、<韓国リベラルの暴走>という、李在明政権関連の本です。新政権での日韓関係について、私が思っていること、彼がいつもつけている国旗バッジの意味、韓国にとっての左派という存在、などなどを、自分自身に率直に書きました。リンクなどは以下のお知らせにございます。
・皆様のおかげで、こうして拙著のご紹介ができること、本当に誇りに思います。ありがとうございます。まず、最新刊(2025年8月30日)<韓国リベラルの暴走>です。韓国新政権のこと、日韓関係のこと、韓国において左派という存在について、などなどに関する本です。・準新刊は<THE NEW KOREA>(2025年3月2日)です。1920年代、朝鮮半島で行われた大規模な社会・経済改革の記録です。原書は1926年のものです。・既刊、<自民党と韓国>なども発売中です。岸田政権と尹政権から、関係改善という言葉が「すべての前提」になっています。本当にそうなのか、それでいいのか。そういう考察の本です。・詳しい説明は、固定エントリーをお読みください。・本当にありがとうございます。