もう日本ではあまり聞かなくなった言葉ですが、アジア版NATO。石破茂総理が総裁選、首班指名選挙の頃に主張してた・・と記憶しています。ですが、一つ前のエントリーでも書きましたが、いざ総理になってからはあまり石破総理本人も口にしなくなったし、一時は相応の反応があったものの「現実的に難しい」、「そこまで枠組みを決めるより、考えが一致する国との安保協力、国によっては準同盟関係を増やしていったほうがいい」、などなどの見解が主流となり、もうしばらく話題にならなくなっていました。ですが、韓国ではなぜか最近になって、ちょっとうろ覚えで恐縮ですが石破茂総理の去就があやうくなった頃から、何度か同じ話が出てきました。5日にも元閣僚(外交通商部長官、日本で言うと外相)出身者の話をもとにソウル経済に記事が載りました。
政府レベルで話が出てきたわけではありませんが、元閣僚、メディアの社説など、ある程度は影響力を持つ意見でもありました。いわば、「日中韓FTA」「日韓海底トンネル」のようなものかもしれません。具体的に何かが動いているわけではないし、実現可能性もあまりないけど、話は続けて出てくる、そして、なぜか韓国が一方的に得をする展開しか考えていない、このアジア版NATOも、そんなところでしょう。で、日中韓FTAや海底トンネルなどが「結局は、日本を中国の経済圏に巻き込むためのもの(そして韓国がその中継地となる)」であるのと同じく、このアジア版NATO構想にも(石破前総理がどう思っていたかは分かりませんが、いまの韓国側の主張と、私の曇った心の囁きによると)裏があります。それは、「米国の影響を外す」というものです。
中国に近づくことではありませんが、結果的には「ものごとの中心」から米国が遠ざかれば、結果は似たようなものになりますから。アジア版NATOだろうがなんだろうが、いまの日本周辺の安保から米国を外すことはできません。記事で元閣僚は「米国が積極的に参加してくれるならもっとも良い」としていますが、言い換えれば、積極的に参加しなくてもいいということでしょう。そのアジア版NATOというものが、独自のシステムをもっていて、米軍との連携が難しくなるなら、尚更です。
日本のようにアメリカのミサイル防御システムに入っている国は、さらに立場が微妙になるかもしれません(韓国はまだ入っていません)。具体的な中身が見えないので、まだまだはっきり言うことはできませんが、「米国を外すため」と思うと、自ずと答えは見えてくる気もします。ちなみに、「元閣僚」は、盧武鉉政権で閣僚だった人です。以下、<<~>>で引用してみます。
<<・・盧武鉉政権時代、外交通商部長官を務めた尹永寛 牙山政策研究院理事長が「日韓が主導するアジア版北大西洋条約機構(NATO)は実現可能だ」とし「米国が積極的に参加すれば最良のシナリオになるだろう」と明らかにした。アジア版NATOは昨年9月、石破茂前日本首相の就任当時、中国牽制及びアジア太平洋地域の安保強化戦略として提示されたもので、論争を巻き起こした構想だ。
尹理事長は5日、現代日本学会と北東アジア財団がソウルのロッテホテルで開催した日韓修交60周年国際学術大会に招待講演としてこのように明らかにし、「米国との同盟を強固に維持しようとする日韓の努力にもかかわらず、同盟関係で質的な変化が起こった場合、米国の歩みに大きく左右されずに権威主義連帯に対処するための国際的連帯が必要だ」と指摘した・・
・・(※石破茂総理の主張は米国及び周辺国から実現が難しいと指摘されてきたが、それでも)しかし、このような難関と関連して尹理事長は「日韓が協力して未来志向的に枠を組んでいこう、という意味として議論できる」と話した。特に権威主義国家に分類される北朝鮮・中国・ロシアが次第に協力を強化する一方、米国はこれまで国際秩序を維持してきたリーダーシップを放棄した状況で、日韓両国が新しい安保協力の青写真を描いておく必要がある、ということだ。
尹理事長は「トランプ大統領は日米韓3国協力体制の必要性について、未温的であり、しっかりした支持意思も表明していない」とし「彼が米国優先主義の立場で非核化の代わりに軍備制御の観点からアプローチし、単・中距離ミサイルリスクは無視したまま大陸間弾道ミサイル(ICBM)問題にだけ集中する可能性もある」とした。そのような場合、日韓両国は依然として北朝鮮の核ミサイルリスクにさらされるしかない、ということだ。
尹理事長は「米中の大妥協のために台湾の利益が犠牲になるのと同じく、米国優先主義とは米国の利益のために同盟の利益を犠牲にすることができるということ」と指摘しながら、「アジア版NATOに米国が積極的に参加すれば最善のシナリオだろうが、そうでなくても、考えが合う国家同士で団結するだけのことだ」とした。
それと共に「日韓両国政治指導者たちが1998年(※日韓共同宣言)や2003年当時(※2023年キャンプデビッド日米韓会談)の指導者たちよりもはるかに強い意志を持って両国協力を推進しなければならない」と強調した(ソウル経済)・・>>
ここからはいつもの告知ですが、新刊のご紹介です。いつも、ありがとうございます。今回は、<韓国リベラルの暴走>という、李在明政権関連の本です。新政権での日韓関係について、私が思っていること、彼がいつもつけている国旗バッジの意味、韓国にとっての左派という存在、などなどを、自分自身に率直に書きました。リンクなどは以下のお知らせにございます。
・皆様のおかげで、こうして拙著のご紹介ができること、本当に誇りに思います。ありがとうございます。まず、最新刊(2025年8月30日)<韓国リベラルの暴走>です。韓国新政権のこと、日韓関係のこと、韓国において左派という存在について、などなどに関する本です。・準新刊は<THE NEW KOREA>(2025年3月2日)です。1920年代、朝鮮半島で行われた大規模な社会・経済改革の記録です。原書は1926年のものです。・既刊、<自民党と韓国>なども発売中です。岸田政権と尹政権から、関係改善という言葉が「すべての前提」になっています。本当にそうなのか、それでいいのか。そういう考察の本です。・詳しい説明は、固定エントリーをお読みください。・本当にありがとうございます。