韓国大統領、光復節演説で『独立精神が憲法の基本』を強調・・日本に対しては新しい内容無し、またもや「金大中・小渕宣言」に言及

尹錫悦(ユンソンニョル)大統領が、光復節演説を行いました。個人的に、尹大統領の、大統領としての立場を考えると、かなりマイルドな内容である、と思っています。しかし、併合時代関連など、中身はどうしても気になる内容ばかりだし、どうせマスコミから『日本に対してマイルドな表現を使った』『日韓関係改善の意志の現れ』などの記事が出てくるだろうし、あえて本ブログなりにツッコみを入れたいと思います。以下、全文から、日本関連部分の抜粋です。

<<「日本は今は、世界市民の自由を脅かす挑戦に立ち向かい、一緒に力を合わせていかなければならない隣人です。韓日関係が普遍的価値に基づいて両国の未来と時代的使命に向かって進むと、前の時代の問題もきちんと解決することができます」、「日韓関係の包括的未来像を提示した金大中・大渕共同宣言を継承し、韓日関係を迅速に回復し、発展させます。両国政府と国民が互いに尊重しながら、経済、安全保障、社会、文化にわたる幅広い協力を通じて、国際社会の平和と繁栄に共に貢献しなければなりません」、「国民の皆さん、大韓民国に自由と繁栄をもたらした私たちの憲法秩序は、苦しかった日帝◯占期に祖国の独立のために献身された方々の偉大な独立精神の上に立っているのです。自由、人権、法治という普遍的価値を基に、共に連帯し、世界の平和と繁栄に責任を持って貢献することこそ、独立運動に献身された方々の意志を引き続き守ることです」>>

 

併合時代や独立精神がどうとかの内容以外には、日本関連はこれだけです。また、『独立運動というのは時代によって違う』としながら、いわゆる反共も独立運動のようなものだった、としながら、その範囲を併合時代に限ったものではないとしています。こんな流れは、文大統領の演説にはありませんでした。また、一つ前のエントリーでも書きましたが、日本『も』という表現もありません(金大中・小渕~の部分が、そのつもりでしょうけど)。これは、いままで尹大統領やパクジン外交部長官が言ってきた『も』シリーズに比べると、かなり迂回的な表現ではあります。

ただ、本ブログ的に気になるのは、憲法という単語です。これは尹大統領に限られることではありませんが、まず、併合時代を『日◯強占期』と言っています。これは、併合時代は違法統治だったとする主張を強調する表現で、北朝鮮から入ってきたと言われています。韓国では、日帝時代という言葉を使っていましたが、いつからか、これが一般的な表現になりました。去年、文在寅大統領の光復節演説でも1回だけ出てきましたが、今年の尹大統領の演説では5回も出てきて、なんというか、ちょっと強調されている気もします。これから書くことになりますが、憲法、すなわち臨時政府のことを強調しているのではないか、そんな気もします。

 

初めての拙著からして、私は韓国の憲法前文に明記されている『臨時政府』の存在が韓国の母体であり、憲法レベルで刻まれている対日観の根幹である、と書いてきました。正統性(legitimacy)などの言葉をブログで紹介してきたのも、そのためです。喩えば、王子が二人いるなら、誰が王位を継承するのか。継承権はどうなるのか。誰がもっと王位継承にふさわしい『名分』を持っているのか。誰を王にしたほうが、国家システム上、もっとも『納得できる』結果になるのか。そういうものを正統性といいます。

近代国家なら、法律を重視することこそが何よりの正統性になっています。しかし、(韓国メディアの表現を借りるなら)『情緒』が法律より重視されているから、でしょうか。この正統性という言葉は、いまでも韓国社会に強い影響を及ぼしています。多少無理して範囲を広げてみると、『道徳的に優位にある』などという言葉も、考えの根幹はこの正統性思想の副作用かもしれません。法律よりも、こちらには名分があるぞ、私の名分こそがもっともいいものだぞ、と。

 

そう、前の政権を完全に『別物』として考え、前政権の『正統性』そのものを認めようとせず、場合によっては法律を書き換えてまで前の政権の存在を消そうとすることも、見方によりますが、古い正統性の名残かもしれません。自分(主に『右か、左か』)こそが『正統性的に相応しい』もので、それ以外は認めたくない、といったところですね。ちなみに、本エントリーに書いてある正統性の説明には、私見もずいぶん入っていますので、その点はご理解ください。もともとハッキリしない概念でもありますので。旧ブログのときは「正統戦隊ワカランジャー」と書いたりしました。懐かしいですね。

その妙な理屈を象徴する言葉として、法統という言葉があります。なんで法のあとに『統』が来る?と思われるでしょう。『統』は、儒教社会においては特に重要な単語です。なにより重要とされた「嫡流」の概念も、韓国では『統』を用いて、『嫡統』と書きます。日本ではあまり耳にしませんが、韓国ではいまでも『血統』という言葉が普通に使われています。北朝鮮で王族の正統性を『白頭血統』と呼んでいるのも、そのためです。南北ともに、『統』という言葉が持つ社会的意味が、大きいからです。

 

じゃ、法統とは何か。韓国では大手ポータル「ダウム」が提供する辞典としても有名な、高麗大韓国語大辞典によると、その意味は二つあります。一つは、仏教で使う言葉で、仏法などを伝授すること。もう一つは、『正統性などを正しく受け継ぐ(直訳)』。例文として、「彼らは、自分たちの政党が臨時政府の法統を継承していると主張した」などが載っています。一般的な生活の中ではあまり聞かない言葉ですが、なんでこれが正統性という古い理屈の象徴になっているのか。それは、韓国の憲法前文に刻まれているからです。臨時政府の法統を受け継ぐ』、と。臨時政府は1919年に出来たと言われている(自分で言ってます)ので、この憲法前文は、「韓国は、併合時代を否定する組織から生まれた」と宣言しているわけです。韓国は今まで何度も憲法改正をしてきました。その際、朴正煕大統領は憲法から臨時政府に関する内容を消しましたが、全斗煥大統領の任期末、復活し、それから今まで残っています。

 

尹大統領が、わざわざこれをここまで強調した理由は何か。表面的に言いたいことはいろいろあるけど言えないから、迂回的に言ったのか。支持率を気にして、左派に向けて柔軟な態度を示したのか。それとも、単に、大統領という立場からして、日本関連で何かそれっぽいことを言わないとならないから、こんな展開にしただけなのか。初頭にも書きましたが、併合時代に対する観点(韓国の大統領にこの部分を要求するのは無理だとは思いますが)以外は、かなりマイルドな表現になっているのも事実です。これからの日韓関係の展開に、この演説がどんな影響を与えるのでしょうか・・・といっても、大して変わることはないでしょう。演説で何を言ったかではなく、『国家間の約束を守る』が大事だからです。まずは19日の現金化判断がどうなるのか、気になるところです。

 

 

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