尹大統領、日韓の懸案を『人権・普遍的な問題』と公言・・前の政権が『合意では解決できないもの』という意味で使っていたフレーズ

昨日の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領の光復節演説、いろいろと低評価ムードです。北朝鮮関連もそうですが、特に日本関連で、メッセージが弱すぎた、と。特に、イ◯ンフや、旧朝◯半島出身労働者関連で、何もメッセージがなかったことを、各メディアは指摘しています。この流れを意識したのか、尹大統領は記者たちに対し、またもや『人権・普遍的な問題だ』としながら、具体的に言わなかっただけで、昨日の演説の中に全部入っている、と話しました。

案件をどう見ているのかはともかく、このフレーズ、前の文在寅政権は、『合意や条約で解決できる問題ではない』の意味として多用しました。文政権は、日韓合意の不履行を宣言したときにも、日韓合意の再協議や、新しい合意はしないと公言していました。日本側の一部のマスコミはこれを「再協議はしないと言ったから、既存の合意を認めるという意味だ」というふうに肯定的に報じたりもしましたが、それ、実は『合意など必要ない』と言っていただけです。実際、それから文政権は何の履行もせず、財団も解体し、国家間の合意だと話したのは数年後(任期最後の年)のことです。

 

単に『私はこう見ている』という意味なら別の表現もいくらでもあるだろうに、尹大統領自らこのフレーズを掘り起こした理由はなにか。国内向けか、国外向けか。気になるところです。まず、「政権(大統領)が変わっても、韓国の対日スタンスが根本的に変わることはない。それは、大統領個人の能力で何とかなるものではない」。これは本ブログだけでなく、大勢の方々が、政権交代直後から指摘していたことです。発言や対応のダイレクトさが少し変わるだけで、結局はいままでの流れを受け継ぐしかない、と。もっとも大きな理由は、これでありましょう。

ただ、『国内』という事情において、いつもより事情が複雑なのは事実です。急に話は変わりますが、今日、文政権で国家情報院長だったパク・チウォン氏と、国防部長官だったソ・ウク氏に対し、家宅捜索が行われました。漂流したとされる(文政権は『自分の意志で北朝鮮側に渡った』と主張していましたが)公務員が、朝鮮半島の西海で北朝鮮兵から銃撃された件で、二人が一部の資料の削除を命じた、などの疑いです。この件に関する捜査が、結局は文在寅前大統領に向けられるであろう・・そう予想するのは難しくありません。支持率で苦労している中、ここまでの件を進めるには、他の負担(演説の件など)をへらす必要があったのでしょう。『~普遍~』はそのための発言だった・・という見方もできますが。

 

しかし、それは日本とは関係ないこと。大統領が話した発言が消えるわけでもなく。日本側がそれを「そうかそうかよしよし」としてやる理由などどこにもありません。しかも、大統領のこの発言、本エントリーは聯合ニュースから引用しますが、韓国では一部のメディアが速報を流すなど、複数のメディアが一斉に報じました。あとで「そんなこと言ってない」とも言えないでしょう。以下、<<~>>で引用してみます。

<<・・尹大統領は16日午前、龍山(ヨンサン)大統領室に出勤しながら、記者との問答で「光復節演説に、被◯者へのメッセージがなくて残念だという反応もあった。彼らを回復させる解決法はあるのか」という質問に、「政権が発足する前から様々な方案について深く悩んでいる」と答えた。それとともに、「昨日(※の演説)は一般的な方向について話すため、詳細な話は入っていないが、その趣旨にすべてが含まれていると見れば良い」とし、「イ◯ンフ問題も人権と普遍的価値に関連する問題ではないか、そう理解すればよいようだ」と指摘した。演説で、国政運営の青写真を総論的に紹介したため細部懸案に言及していないが、演説で強調した『自由と人権の価値』の次元でこれらの問題を見ている、という意味だと解釈される(聯合ニュース)・・>>

 

実は、尹政権でも、「日韓合意で解決できたわけではない」というスタンスは続いています。駐日韓国大使の尹徳敏(ユンドクミン)氏も、まだ大使内定者(任命前)だったとき、「まだ解決できていない」と主張しました。彼は、日韓合意があった朴槿恵政権で、韓国政府機関傘下のシンクタンク「国立外交院」の院長でした。そんな人でも、解決できたとは思っていないわけです。今年5月26日中央日報の記事ですが、氏は日本経済新聞が主催する「アジアの未来」というコンソーシアムにオンラインで講演し、質疑応答の際、2015年の日韓合意と関連してこう話しました。 <<・・「問題に対して責任のある日本側から、合意の後に『お金ですべての問題が終わった』というふうの発言が出てきて、世論が大きく悪化し、状況が変わってしまった」と説明した。補償と謝◯は、被害者の名誉回復と治癒のための過程の一環であるにもかかわらず、日本側が『補償ですべてが終わった』と見たことが問題だった、という解釈だ(中央日報)・・>>

 

最後に、NHKなどは「尹大統領が光復節演説で関係改善の強い意志を示した」と報じているようですが、いざ韓国メディアには、「なにを言っても、現金化問題があるかぎり、意味がない」という論調が目立ちます。サンプルとしてソウル新聞の記事を引用して、そのまま終わりにしたいと思います。 <<・・尹大統領が韓日関係改善の意志を表わしただけに、年内に韓日首脳会談などを設けることができるか、注目される。ただし、韓日間の最大懸案である、日本企業の国内資産の現金化が迫っている中、政府が被◯者側と日本側が収容できる解決法を導出できるかは未知数だ・・

・・チェウンミ、アサン政策研究院研究委員は、「岸田内閣の優先順位は外交ではなく経済で、韓国との関係設定で既存の態度が画期的に変化するとは思えない、ただし、現金化解決方向によって関係改善を期待できる」と明らかにした。ジンチャンス、セジョン研究所日本研究センター長も、「日本が過去を直視しない状況で、韓国だけ未来志向的な協力を強調することも、政府には負担になるだろう」とし「日本は現金化問題が前向きに解決されなければ韓日関係は解けないという雰囲気だ」と分析した・・・・一方、日本のメディアはユン大統領の演説に肯定的な反応を示した。NHKは「ユン大統領は韓日関係を改善するために再び強い意欲を見せた」と評価した(ソウル新聞)・・>>

 

 

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