インフレ抑止法。この法案の賛否に関する議論もありますが、本エントリーで取り上げる部分は、韓国側の対応です。まず、米国で成立したインフレ抑止法とは、簡単に言うと、インフレ抑制と経済安保の融合です。気候変動対応と医療保障の拡充などがメインですが、気候変動ということで電気自動車購入に補助金を与える、となっています。新車は最大7500ドル、中古車は4000ドルの補助金を支給する、と。
そして、電気自動車だからバッテリーで、バッテリーだから経済安保ということで、中国など一部の国家で生産されたバッテリーや鉱物を使用した電気自動車は、一部の恵沢を受けることができません。また、例の補助金も、米国内で一定部分以上が生産された車で、また最新モデルという制限もあります。で、ニューシース、 毎日経済など複数のメディアの報道によると、現代(HYUNDAI)自動車がメイン商品としているアイオニック5(確か、これ、日本でも販売しています)をはじめ、この補助金から対象外となります。全量、国内生産だそうでして。以下、各紙、<<~>>が引用部分となります。
<<・・米国現地で電気自動車を生産しない自動車メーカーは補助金が受けられず、現代車と起亜(KIA)車も受けられない。現代・起亜車は電気自動車アイオニック5とEV6を全量国内で生産中だ。インフレ抑止法の施行で、来年から補助金を受けられなくなれば、来年のアイオニック6、EV9など新規ラインナップを投入し、米国電気自動車市場を先導するという現代車グループの構想は相応のダメージが避けられない。インフレ抑止法は、中国などで生産されたバッテリーと核心鉱物を使った電気自動車は税額控除対象から除外する内容を含んでいる。 税額控除対象になるには、2024年からバッテリー部品の50%も北米生産品でなければならない。 中国を牽制し、自国の安定した電気自動車バッテリー・サプライチェーンを構築するための措置だ(ニューシース)・・>>
<<・・電気自動車の核心であるバッテリー部品も、北米地域で組み立て・製造されなければならない。 来年1月からバッテリー素材・部品の北米地域生産・組立比率が最低50%以上でなければならず、2029年には100%を達成しなければ、補助金を受け取ることができない。バッテリーのコア鉱物は、米国または米国とFTAを結んだ国で採掘・加工されたものでなければならない。 来年の最小比率は40%であり、2027年までに順次80%以上にならなければならない(毎日経済)・・>>
で、ここからが本題です。このインフレ抑止法について、ですが・・韓国の産業通商資源部の李昌洋(イチャンヤン)長官が、国会で『正式にWTOに持っていくことを積極的に検討している』と公言しました。日本で言えば経済産業相にあたいします。言った内容より、言った順番が問題です。長官は、『インフレ抑止法の成立直後に、すでに米国側にもそう言っておいた』としていますが、これほどの発言をする前に、米国側と話し合い、ある程度は進めておくものでしょう、普通。
それがどうしてもうまくいかなかったなら、発言を強くしたりして、調整を試みる、と。でも、初めからこの件を言い出し、今度は国会で公言し、記事になりました。米国側と、いわゆる疎通チャンネルというものを持ってないのでしょうか。イ長官はWTOのことをすでに言っておいたとし、『これから協議する』とも話しました。国会で公言する前に、事前の協議も調整もなかったことを、まるで『よくやった、私』な感じで言ったわけです。
<<・・李昌洋産業通商資源部長官が、韓国産電気車を電気自動車補助金支援対象にしなかった米国のインフレ抑止法と関連し、世界貿易機構(WTO)に正式提訴する案を積極的に検討すると22日明らかにした。この日、国会産業通商資源部・中小ベンチャー企業委員会全体会議に参加したイ長官は、インフレ抑止法が通商の規範に沿っていない可能性を検討しているのか、というイインソン「国民の力」議員の質疑に、このように答えた。電気自動車補助金支援問題を解決するため、WTOという強い対策を取るという意志を明らかにしたのだ。
イ長官は「今回の米国インフレ抑止法によって、関連した産業界に懸念が生じている」とし、様々な経路を通じて韓国政府の意思を伝えていると明らかにした。彼は「インフレ抑止法が出た直後、通商交渉本部長名義で米国貿易代表部(USTR)代表にWTO規定と韓米自由貿易協定(FTA)規定と合わない可能性と懸念を伝えた」とし「外交部長官など様々なルートで懸念を伝えている」と話した・・
・・李長官は「今週や来週初めに、室長級通商担当を送って、米国の意思を確認する予定だ」とし「来週は通常交渉本部長がインド・太平洋経済フレームワーク(IPEF)会議に関する米国出張で、この問題をまた議論する 」と説明した。アンドックン通商交渉本部長は、IPEF議題協議のため来月初めに米国を訪問する。この時、インフレ抑止法に関する懸念を米国側に伝え、協議に出るものと見られる(毎日経済)・・>>
協議もする前に、これほどの発言を公にしておく。これは、外交や協議として側面で、どうなのでしょうか。北朝鮮問題も、中国とも、米国とも、そして、なにより、日本とも、ユンソンニョル政権は全てにおいて肯定的なことを言い、自信を持っていました。北朝鮮には何か強い言葉を、日米には『私は味方です』を、中国には『誤解しないように』という言葉を送っておけば、それだけでうまくいくと、そう思っていたのかもしれません。しかし、いまのところ、これといった成果は見えてきません。そのたびに思うのですが、ユン政権って、(北はともかくして)他国と事前に話し合い調整するための、いわゆる『チャンネル』を、あまり持っていないように見えます。これもまた、前政権の置き土産でしょうか。それとも、なにか、外相会談のとき、中国と『話し合い過ぎて』しまったのでしょうか。
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