米中対立の中、「戦略的曖昧さ」から抜け出せないでいる尹錫悦(ユンソンニョル)政権

最近同じ文章を何度も書きましたが、5月、バイデン大統領が訪韓し米韓首脳会談が開かれた頃から、『戦略的曖昧さは終わった』『尹錫悦(ユンソンニョル)政権はもう完全に米国側に舵をきった』という主張が目立つようになりました。当時、『問題は、中国との関係をどう管理するかだ』という問題提起はあったものの、米国との関係改善において、ユン政権が何をどうすべきかについて具体的に話す人はそういませんでした。価値外交、米韓同盟アップグレード、グローバル包括な同盟関係など、具体的とは言えない言葉が次々と登場しました。あるとしても、米韓合同軍事演習の再開ぐらいでした。

ちょうどバイデン大統領が話した内容も、具体的なものは何一つ無い、これでいいのかという指摘もありましたが、多勢に無勢というか、あまり話題になりませんでした。特に『日本より先に』訪韓したというのが大きく、当時与党『国民の力』代表だったイ・ジュンソク氏が、「大統領が変わっただけなのに、国の格が上がった感じがする」、「バイデン大統領が日本より先に訪韓し、尹大統領と首脳会談をして、晩餐もした。 私もその場にいたが、本当に誇りに思った」と話したりしました(朝鮮日報)。イ代表、いまはユン大統領と対立、与党の内部対立そのものの中心人物でもありますが、このときはこんなものでした。

 

本題の「舵をきった」「戦略的曖昧さはもうやめた」の部分ですが、まず当時の記事から短く引用してみますと、大まかにこんな内容です。これは6月3日の国民日報からです。以下、各紙、<<~>>が引用部分となります。 <<・・もう一つの重要キーワードは韓米同盟だ。ユン大統領とバイデン米国大統領の首脳会談は、熱かった。北朝鮮問題、中国問題にもかかわらず、ユン大統領はアメリカの手を挙げた。ユン大統領は、米中の間で戦略的曖昧さを維持する外交政策を廃棄したのだ。北朝鮮が弾道ミサイルを発射すると、4時間で対応発射した。 韓米同盟の強化は必然的に日本との関係改善にも関わるだろう(国民日報)・・>>

しかし、実際に何か『成果』と呼べるものがあったのかというと、ハッキリ言ってありませんでした。いろいろありますが、当時「、私が個人的にもっとも『なんのショーだ、これは』と思ったのが、米韓首脳会談でクアッド加入関連です。米韓首脳会談でクアッド加入し、そのままユン大統領は日本で開かれるクアッド首脳会議に参席する予定だった」という話も出ています。東亜日報によると、「尹大統領就任式に岸田文雄日本首相が出席し、ジョーバイデン米国大統領の韓国訪問に続き、韓米首脳が一緒にクワッド首脳会議が開かれる日本に向かうという、実にもっともらしい絵だった」、とのことでして。記事の題が「期待と現実」なのが、すべての説明になっている気もします。

 

しかし、このような主張を(書いた記者にもよりますが)載せていたメディアの中で、明らかに左側とされるもの以外で『大手』と呼べるのは韓国日報と京郷新聞ぐらいで、主流は『もう完全に米国側に舵を(以下略)』という主張でした。プレゼントといえば、米韓首脳会談のとき、バイデン大統領は「The buck stops here(ちゃんと自分で責任を取るという意味)」というプレートをプレゼントしました。国内メディアでは、これが「米国が韓国の安全保障に責任を取る」という意味だと報じられましたが、どうでしょうか。逆の意味もあるのではないか、そんな気もします。

 

最近、インフレ抑止法(電気車補助金)や半導体関連の法律(中国に新規投資した場合、支援金を回収するなど)関連で、米国への失望感が広がっています。1~2ヶ月前までは、この論調は、日本に向けたものでした。政権交代したのになんで首脳会談しないのか、という。日本の場合は国家間の約束、条約や合意のことだから、国内法案関連の米国と同例で語るべきではないでしょうけど、各メディアの論調は似ています。これといって何もせずに『期待』だけして、現実に戸惑うとでも言いましょうか。とにかく、最近は『これが同盟国に対する態度なのか』という記事が右側メディアに載るほど、反発が強くなっており、わずか3ヶ月であまりにも雰囲気が変わりました。いまになって5月、6月の記事を読んでみると、イ代表のこともそうですが、米国関連記事の違和感が半端ありません。

 

この件において、6月から、「戦略的曖昧さをやめたと言うけど、中国に対するスタンスが、前の文在寅政権と変わっていない」と指摘する記事がありました。6月3日京郷新聞の記事で、今読み返せば、いい指摘だったと思います。 <<・・韓米同盟とは逆サイドの存在である韓中関係の戦略も、見えてこない。戦略的曖昧性を脱したというユン政権だが、中国については文在寅(ムン・ジェイン)政権と同じ説明を出しているだけだ。政府は、インド・太平洋経済フレームワーク(IPEF)に参加することが「中国を外すためのものではない」と主張する・・

・・そのIPEFの基本趣旨が何なのかを考えると、このような説明が説得力を持つわけがない。戦略的曖昧さをやめて韓米同盟強化の方向に進むと決めたなら、こんな説明ではなく、「中国ももう変わらなければならない」と言えるはずだ。台湾海峡の「平和と安定」を強調したのも、一般的な意味だと熱く語るぐらいなら(※米韓首脳会談で台湾関連の話が出てきましたが、大統領室は後になってそれは『その地域の安定を願うという一般的な表現にすぎない』と説明しました)、包括的戦略同盟として「該当地域での武力使用はあってはならない」と明らかに言えるはずだ。中国に正面から対応せず、回避ばかりするのは、いまだ戦略がないという防証なのだ(京郷新聞)・・>>

この記事の指摘は的中しました。それからのユン政権は、『中国側に舵をきったのか?』なスタンスになりました。ちゃんと自分で責任を取る。バイデン大統領が残したプレートに込められた、ある種の懸念(見方にもよりますが)もまた、的中したと言えるでしょう。最後に、また同じ告知で恐縮ですが、プレジデントオンラインに、拙著『尹錫悦大統領の仮面 (扶桑社新書)』の一部編集版が掲載されました。ありがとうございます。

 

 

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