韓国政府が談話を出し『対話』を提案した当日、北朝鮮は核兵器使用を法制化・・対日、対米、対中に続き、対北外交でも躓くユン政権

6月、キム・ゴンヒ女史(ユン大統領の奥さん)の活動について野党側からいろいろ疑問が提起されていたときのことです。尹錫悦(ユンソンニョル)大統領は「担当の部署を作るのはどうか」という記者の質問に、「大統領やるのは初めてでして、どこから公式日程にすべきかよく分かりませんね」と話したことがあります。この発言、「90年代から、2回やった人はいないだろう」とネットで結構人気(?)を集めたりしました。「~は初めてなので」というバリエーションで、今でもたまに見かけます。

さぁ・・初めてだからかどうかはともかく、様々な分野で、ユン政権の政策がつまづきを見せています。今回のエントリーで取り上げるのは、主に北朝鮮関連です。皆さん、『大胆な構想』という言葉、覚えておられますか。覚えていますか目と目が点になった日を~的な、あれです。8月15日、韓国大統領の演説の中でももっとも重要とされる3月1日と8月15日の、後者の演説で、尹錫悦大統領は北朝鮮に対する破格な支援を言い出しました。それらの支援は国連の対北朝鮮制裁から免除できる、非核化のための対話に応じるなら、制裁の一部の解除もありえる、そんな内容でした。いわゆる『大胆な構想』です。

 

いわゆる『先・解除、後・非核化』路線とも言えるこの構想は、明らかに今までの米国側の路線とは違うものであり、『大胆ではあるが、実現できるのか』という評価がほとんどでした。日米側も、『核問題を解決するための努力を歓迎する』という趣旨は話しましたが、大胆な構想については同意していませんし、それから何のコメントもありませんでした。というか、これ、文在寅(ムンジェイン)大統領のやり方とほぼ同じです。それからしばらく、これに関するニュースはありませんでしたが・・8日、ユン政権が、北朝鮮側に対話を提案しました。しかし、同日、北朝鮮は『核兵器の使用を法制化した』と発表しました。以下、ニュース1と、チャンネルAの記事からそれぞれ引用します。<<~>>が引用部分となります。チャンネルAの記事は今日のものですが、法制化発表は8日のことです。

 

<<・・政府は8日、初めて北朝鮮に「当局間会談」を提案した。南北韓当局者が直接会って離散家族問題解決など人道的事案を議論しようという提案を盛り込んでいる。ただ、北朝鮮の強硬な対南基調によって会談がすぐに実現される可能性は低いとの観測が出ている。クォン・ヨンセ統一部長官は8日午前、統一部長官名議の談話を発表し、「今日政府は南北当局間会談を開催して離散家族問題を議論することを北朝鮮当局に公開的に提案する」と話した・・

・・「会談日、場所、議題や形式なども北朝鮮側の希望を積極的に考慮する」とし、北朝鮮の積極的な呼応を促した。当局間の会談を通じて、人道主義的な支援以外の他の議題も案件にできるという立場も明らかにした。この日、政府の談話は、人道的事案は政治・軍事的情勢とは無関係に推進するという点を強調しながら、北朝鮮を対話に引き出すためのものだと解釈できる。ユン政権の「大胆な構想」を北朝鮮が受け入れないでいる中、政権の方向性とは無関係な人道主義的な事案を再び『カード』として使ったものだと見られる(ニュース1)・・>>

 

しかし、同じ日、北朝鮮関連でメインのニュースはこちらでした。 <<・・8日に開かれた最高人民会議で、核武力の使用及び原則、指揮統制権限など11条項を盛り込んだ法令が、正式に採択されました。 北朝鮮が核兵器使用条件を明示した法令を発表したのは、今回が初めてです。防御はもちろん、先制的に使用できるように条件を設けており、指揮統制体系も金委員長に一元化、恣意的解釈でも使用可能にしたという懸念が提起されています(チャンネルA)・・>>。大胆な構想が、ある意味、ものすごく大胆な形で失敗する瞬間だった、とも言えるでしょう。

 

拙著「尹錫悦大統領の仮面」でも重要なテーマの一つとして取り上げましたが、尹錫悦政権にとって北朝鮮は大いに『利用できる』存在でした。大統領候補だったときも今も、与党『国民の力』はゴタゴタっていますが、なんだかんだで『右』と『左』の二択以外は存在しないのが、韓国の選挙です。少なくとも右側の候補として名を挙げたからには、少なくとも北朝鮮関連で強く出ると、相応の評価を得ることになります。

それに、ユン政権にとって北朝鮮問題は外交面での突破口でもありました。ユン政権は、日米との関係改善(米国の場合は『復元』という言葉のほうが流行りましたが)を掲げていましたが、最初から、中国と対立するつもりなどありませんでした。よって、北朝鮮関連で(いわば『安保』で)積極的に協力するから、中国関連で(いわば『経済』で)例外を認めてほしいというスタンスを取りました。これは米国だけでなく日本に対しても同じで、そもそもグランドバーゲン構想というのも、安保面での協力を条件に、それ以外の案件の一括妥結を試みるものでした。

 

しかし、日本は今まで『一貫した日本の立場』を守り続けました。そして、もはや国際情勢において、『経済』と『安保』はそれぞれ別のものではありませんでした。そういえば、いつだったか、「バイデン大統領の訪韓でやっと経済安保という言葉が目立ってきたが、つい最近まで、経済安保を『経済と安保』としか解釈しない風潮が主流だった」とブログに書いた記憶があります。この認識の差が、戦略的曖昧さとして今でも残っているわけです。

結果、対日外交も、対米外交もうまくいかず(うまくいかなかったというより概ね予想通りですが、『期待と現実』という側面においては『全然うまくいかず』でした)、ユン大統領及び与党・国会などから、中国関連で妙な発言が相次ぎました。「中国が参加できないグループには参加しない(与党重鎮議員)」、「中国主導のグループに入ることもできる(国務総理)」、「中国が誤解しないように積極的に(ユン大統領)」、などなど。ついには、韓中外相会談を控え、ペロシ議長と会わなかったことも、この流れの一環でした。だからといって、中国との会談で何か成果があったわけでもなく。

 

それから大胆な構想を言い出しましたが・・難しいこと考えなくても、どこかの記事で読んだ主張ですが(ちょっとうろ覚えです)、『いままで強硬なスタンスを示しておいて、急にそんなこと言っても相手が応じるはずがないだろう』という指摘が、もっとも分かりやすい気もします。でも、まだまだです。前政権の「経験したことのない国」と現政権の「大統領は初めてなので」の戦いは、まだ始まったばかりですから。最後に、お陰様で順調の「プレジデントオンライン」の寄稿文(拙著の部分編集記事)ですが、なんと第二弾が掲載されました。最近よく書いてきた半導体関連、中国関連の内容で、タイムリーでよかったと思っています。本当にありがとうございます。

 

 

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