金利引き上げによる数々の副作用、特にプロジェクト・ファイナンス(PF)や、不動産価格の下落や資金流動性の問題などに対し、いままでは基本的に「問題ない」というスタンスだった尹政権ですが、急に対策を発表しました。後述しますが、『貸し出しを受けやすくしますので、マンションを買ってください』な内容のものです。いろいろありますが、もっとも話題になっているのが、『15億ウォン以上の家も、住宅担保融資を受けることができる』ようにしたことです。
ほかの国ではどうなのかよく分かりませんが、韓国では家を買うとき、その購入予定の家を担保にして貸し出しを受けることが一般的です。ただ、一応制限があって、15億ウォン(計算しやすく1円を10ウォンにすると、約1億5千万円)以上の家を買うときには、その家を担保にしての住宅担保貸出は受けることができません。尹政権は、その制限を解除しました。その家の半分までなら、貸し出しが受けられるようにしたのです。2000年代になってからずっと韓国の経済はもちろん、GDPそのものを支えてきた『お金を借りてマンションを買ってください』政策。しかし、それらは、時期にもよるものの、基本的には低金利とともに存在してきました。
金利が上がっている今の状況でこれが効果あるのか?というのがまず疑問です。そして、『収入に応じて、受けられる貸し出し総額に制限がある』、いわゆるDSR(DSCR、元利金返済カバー率)は40%のままです。どういうことなのか、実例をMBNが紹介していますが、こんな感じになります。「専用81平方メートル、相場が20億ウォンに達するマンションを購入するとします。今回の制限が緩和されたことで、半分の10億ウォンは(※住宅担保ローンで)貸し出しが受けられるようになります。
ただし、DSR40%はそのままなので、10億ウォンを借りるには、月1,300万ウォン以上の収入が必要になります。また、5%金利基準にすると、毎月536万ウォンを返済しなければなりません」。この条件が満たせる人はさすがにそう多くないのでは、というのが記事の指摘で、実際、不動産関係者はインタビューで「金利が高いのに、何の意味がある」と話しています。
こんな中、一部の金融機関が、不動産関連の新規貸出を(記事によっては来年まで)中断すると発表しました。個人的に、『集団ローン(集団貸出)』を中断したのは、結構大きいと見ています。集団ローンというのは、例えば、マンション団地『A』を契約した人100人がいるとします。彼ら100人(実際には、貸出が必要ない人もいるでしょうけど、あえて全員だと仮定しますと)が集団でローンを申し込むことを、集団貸出と言います。このローンが流行っている理由は、『個人』の審査が無いからです。この100人は、『Aの契約者』ということで、Aを作った建設会社または施行会社などを一つの基準とし、100人の『個人』それぞれの返済能力などは審査無しでローンが組めます。
A契約者であるというステータスに、個人としてのステータスは隠れてしまうわけです。この集団ローン、地域や物件、そしれもちろん人それぞれによるものの、マンション購入においてなくてはならない存在でした。他にも『共同貸出』も中断となりましたが、これは簡単に言うと、多くの組合が力を合わせて土地購入資金のローンを組むことを意味します。どちらかというと、こちらは買う側ではなく、マンション団地を作るプロジェクトに必要な存在です。多くの金融機関が加わることで、お互いの信用を補強し合うという趣旨です。
ですが、農協中央会、信用協同組合中央会、水産物産業協同組合中央会など(『中央会』が付く金融機関は第1金融圏で、中央会でないものは第2金融圏となります)、一部の金融機関が、『集団貸出』と『共同貸出』を中断するすると公式に発表しました。毎日経済など複数のメディアが報じています。これら組合中央会は、例えば最近いろいろと話題(?)になっているプロジェクト・ファイナンスなどに関わっている勢力としては、そこまで大手ではありません。しかし、この動きは、これからすべての金融機関に広がると思われます。来年再開するとしても、審査を大幅に強化する路線になるでしょうし、他の金融機関も同じ流れに乗るでしょう。繰り返しになりますが、個人的に、これは結構大きなことではないだろうか、と思っています。以下、<<~>>が引用部分となります。
<<・・基準金利の引き上げにより不動産景気が急速に凍りついている中、農協中央会、信協中央会に続き、水協中央会も、共同ローン、集団ローンを中断することにした。高まった利子負担の中、貸し出しのハードルがさらに高くなると思われる。28日金融圏によると、水協中央会は来月7日から不動産開発関連の共同貸出と、マンション集団貸出の新規取り扱いを中断することにした。集団貸出とは、マンションの新規分譲や再建築・再開発入居予定者を対象に、個別審査なしで一括承認するものをいう。共同貸出とは、複数のユニットの組合が、共に土地買取資金の融資などを行うことを意味する。事業規模の大きい開発事業は、このような共同ローンを受けてきた。水協中央会は最近、不動産市場関連のリスクを事前に対応するため、集団・共同貸出の中断を決定したと説明した。すでにセマウル金庫、農協中央会、信協中央会などが、共同・集団貸出を中断することにした(毎日経済)・・>>
プロジェクト・ファイナンスに第2金融圏がここまで入ってきたことが、各メディアから問題とされています。2008年までは、普通ならそこそこ高い基準の審査のもと、第1金融圏がメインで行っていました。(これについては25日の『金融危機はいつもPFからだった』というエントリーも参考にしてください)。しかし、個人的には、貸す方だけが『サブプライム』化したのではなく、借りる方もまた、「集団貸出」という魔法を使って、『実はサブだけど、これでサブではなくなるぞ』な買い方をしていたのも、ずっと気になりました。なにせ、この集団ローンのこと、旧ブログのときから書いた記憶がありますので。そこに、『高金利の時代に、ローンでのマンション購入を勧める政府政策』が加わったわけですが・・さて、どこへ向かうのやら。
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