韓国大手メディア、慎重に『不動産価格による金融危機』を取り上げる・・2008年と比べて、何が同じで何が違うのか

先月中旬が過ぎてから、各メディアが金融危機という言葉を使うようになりました。ほとんどは、2008年(リーマン・ブラザースやサブプライム住宅ローンなどがあった頃)に比べてまだまだ大丈夫だとする趣旨のものでしたが、それでも一部のメディアは「確かに状況は『異なる』けど、それが良い意味で異なるのかは何とも言えない」とする記事を載せたりもしました。そんな中、今日、朝鮮日報のビジネス版(のようなもの)『朝鮮BIZ』もまた、2008年と現在を分析し、『当時より改善されている点と、むしろもっと懸念される点』を記事にしました。保守側のメディアは、政権の立場に配慮してか、(書いた人によるところもあるとは思いますが)もうちょっと慎重な書き方だったので、ほんのちょっとだけ意外です。

記事はシリーズもので、本エントリーのソース記事は不動産価格に関する内容です。記事によると、2008年末時点で基準金利は5.25%でしたが(定期預金派だった私の感覚だと、それまでは定期預金で利子4~5%は当たり前でした)、2006年あたりからローンで首都圏に家を買った30~40代がもっとも大きな影響を受けた、とします。記事はこれを『深刻な社会問題だった。いわゆるハウスプア規模は2010年に150万人を超え、政府が金利引き下げをはじめとする脆弱借主のローンを低金利のものに転換、住宅オークションを猶予する制度などの対策を用意し、やっとその増加は止まった』としています。

 

しかし、2022年の今では、それと同じような現象が20代~30代で起きています(この点、2つ前のエントリーなども参考にしてください)。2021年前後にローンで家を買い入れた20代・30代、いわゆるヨンクルを中心に、ハウスプアがまた広がるようになった、というのです。マンション売買取引統計によると、2022年7~9月基準での総マンション売買取引2791件のうち、20・30代による数が885件で、全体の31.7%だったそうでして。

記事は、こんな中、2022年は2008年に比べ、「2008年よりは大丈夫だ」とする意見と、「むしろもっと懸念される」という意見を共に載せています。まず前者の場合、ローンの『質』が改善されており、供給物量も減っているので、価格の下落は以前ほど大きくはないだろうというものです。後者は、前例がないほど急に金利が上昇したし、ローンなどに対する制度も異なるので、不動産価格の下落の幅がさらに大きくなる可能性がある、記事の趣旨的に、そこから金融危機が発生する可能性が2008年より高い、という内容になります。

 

まず、改善されているので2008年のようにはならないという主張から紹介します。いくつか書いてありますが、個人的に「あ、それはたしかに」と思ったのが、元利金合わせての分割返済が増えたことです。これ、私が旧ブログ書いていた頃は、元金を返済する人はほとんどいませんでした。記事が「ローンの質」とする論拠もこちらで、金融委員会の資料によると、住宅担保ローンに限ってのデータではありますが(※住宅担保でローンが組める人は、それでもまだマシな立場だといえます)、元利金をともに返済している比率が2010年の6.4%から、2018年末には51.6%まで大幅に増えている、とのことでして。どちらかというと2010年のほうが凄すぎたという見方もできますが、とにかくこちらは満期が近づくほど残金が減ることになるので、たしかに改善されているとも言えるでしょう。それでもまだ51.6%ではありますが。

他に、2019年12月から、DSR(年収に応じて、受けられる貸し出し金額の上限が決まる)制度を強化したのも、一つの要因です。また、2008年からの時期に比べると、住宅供給が少ないほうだというのもあります。ソウルのマンションに限ってのデータではありますが、供給物量は2022年に2万2092世帯で、2024年までは1万1881世帯に減る、とのことです。2008年には同じデータで2万3198世帯でした。これはちょっと微妙かなとも思いましたが、一応、記事の論拠となっているので、紹介します。

 

ここからは2008年よりさらに問題とされる部分ですが、基本的に2つだけ。家計債務が当時とは比べ物にならないほど大きくなっている点、そして、2008年は金利を下げることで何とかなったけど、いまは金利が急に上昇している点、言い換えれば下げることができない点です。先も書きましたが、2008年の基準金利は、約1年間で5.25%から2.0%に急に下がりました。それからは引き上げが続き、2011年6月に3.0%までに上がったものの、ご存知、それからは再び低金利となり、2021年には0.5%。新型コロナなどの理由もあってさらに貸し出しがゆるくなりました。そこでヨンクルとか、そんなものが急増したわけです。

現在の金利は、まさに急に上昇中です。記事によると、「2021年8月から2022年10月まで8回にわたって、0.5%から3.0%に急騰」。Fedの基準金利引き上げに合わせて動くしない事情などもあるので、もうすぐ4%台の話も出てくるでしょう。記事は、来年初頭でも3.5~3.75%にはなるだろう、と予想しています。これは基準金利ですが、実際のローンは加算金利などもあり、すでに5大市中銀行(※最も大手の第1金融圏銀行)が取り扱っている住宅担保ローンの加算金利は平均で2.77%。記事は、2013年7月時点まで、同じ加算金利は1%にもならなかった、としています。結果、今の第1金融圏のローン金利は、もちろんケース・バイ・ケースでしょうけれども、一般的に7%台。年末や来年の初頭には9~10%も見えてくるだろうと言われています。

 

家計債務の総額は、今年4~6月基準で1869兆ウォン。自営業者や零細企業の貸し出し、ジョンセ保証金、リボ払い、一部の貸付業者(第3金融圏、合法の場合)のデータは、この1869兆ウォンには含まれていません。記事によると、2012年には964兆ウォンだったので、10年で2倍になりました。処分可能所得比で考えてみると、2008年には138.5%、2020年には200.7%。当時、140%超えたときから、アメリカのサブプライム住宅ローン事態の「可処分所得対比家計債務」よりもっと高くなったという記事が出ていましたが・・いつのまにか200%超えたようです。

個人的に、『いや、問題が始まるなら第2金融圏(貯蓄銀行など)でしょう』と思いました。ソース記事は十分良い内容だとは思いますが、この記事だけでなく、なんで第1だけを基準にするのか、よく分かりません。いつも、問題になるのは『弱い環』です。2008年以降、第1金融圏(普通の銀行)は、プロジェクトファイナンスから距離を置くようになりました。しかし、その隙間に、貯蓄銀行、証券会社、保険会社など第2金融圏が、まさに社運をかけて投資を行いました。不動産関連で語るなら、やはりプロジェクトファイナンスに関する内容が必要だろうし、そこに関わっているのは第1ではなく第2の方である点を、また考えないとならないでしょう。個人的に、不動産関連だと、これが2008年と現在のもっとも異なる点だと思っています。

 

 

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