30年ぶりに実現した大統領への「ぶら下がり取材」、スタート6ヶ月で事実上の終了か・・出勤する大統領が見えないよう、壁まで設置

主に、政治家が出勤または退勤するときに、記者の質問に簡略に答えること。日本ではぶら下がり取材ともいいますが、韓国では「ドアステッピング」と言います。ドアステッピングの本来の意味は、人気の芸能人、話題の人物などを、取材陣が待ち構えていることを意味します。だから、この場合はちょっと違うのではないか・・そんな気もしますが、大統領室側も、ドアステッピングと言っています。本エントリーでは、「大統領へのぶら下がり取材のこと」と思ってください。

外国の場合は、国によるといったところでしょうか。例えば、大統領が執務室のある施設で住むこともあるので、そんな場合は出勤も何もなく、単にどれだけ記者会見を頻繁にやってくれるのか、そういうところが重要になってきます。韓国の場合、まだ軍人さんが政治をやっていた頃には、警護などの問題で、ぶら下がり取材など、夢のまた夢でした。でも、1987年、大統領選挙が全国民による直接選挙(それまでは、長い間、投票人団によるものでした)に戻って・・それから1992年の選挙で金泳三(キムヨンサム)氏が大統領になり、いわゆる軍事政権が終わってからは、日本のように、出勤・退勤のときに大統領が簡単に記者会見のような形で質疑応答するのはどうか、という話も聴こえてくるようになりました。日本の場合、こんな会見が『数えられないほど』行われます(年に数百回?)。

 

特に朴槿恵大統領の頃から、『記者会見してくれない』という話が増えました。それまでも、演説ばかりだ(質問はできない)という話はありましたけど、朴槿恵大統領の場合は本当に不思議なほどで、就任1年目の場合、翌年の新年記者会見まで、国内メディアとの記者会見は一度もやりませんでした(2013年12月19日文化日報)。そのあと、民主主義ろうそく(?)で大統領になった文在寅大統領も、『年に1~2回あるかどうか』でした。さき、ドアステッピングという用語がちょっとズレているという話をしましたが、いままで無かったので、相応の用語も無く、『見た目』が似ているドアステッピングと呼ぶようになったのではないか、そんな気もします。同じ英語が他の国で別の意味で使われることは珍しくもないので、別にいいでしょうけど。

このように、ぶら下がり取材は、韓国、とくに言論においては、ずいぶん前からの宿願でした。選挙制度が今のようになってからだと、ざっと30年以上前から、ドアステッピングを望む声があったわけです。で、これを初めて実現したのが、何を隠そう(ゴゴゴゴ)、尹錫悦(ユンソンニョル)大統領です。見方にもよるでしょうが、個人的に、ろうそくなんとかより、これのほうが、ずっと民主主義的な進展であったと思います。

 

ですが(ゴゴゴゴ)、このドアステッピング、就任6ヶ月で、事実上終わってしまったようです。21日、しばらく中止すると公式発表されました。いままでも、大統領室の人が新型コロナにかかったとき、台風のときに大統領が退勤したという報道があったときなど、2~3日中断されたことはありましたが・・今回は、『保安』を理由に、今までドアステッピングしていた場所に壁を作って「出勤する大統領の姿そのものが見えない」ようにするなど(JTBC)、どうやら本気のとうです。また、内容的にも、もし再開されてもちゃんとした質疑応答はできなくなるでしょう。

この前、ニューヨーク国連総会であった、尹大統領の『ダブルエックス』発言。MBCなど一部のメディアはそれを『バイデンに言ったもの』とし、大統領室及び与党側は『国内の野党に言ったこと(または、ダブルエックス発言そのものが無かった、とも)』とし、大きな騒ぎがありました。尹大統領はこの件を、米韓同盟に対する離間の策だとしており、今回、ASEAN首脳会議やG20に行くときにも、MBCの取材陣を専用機に乗せませんでした。そして、18日、ドアステッピングのとき、尹大統領はMBCの例のお報道を『悪意のある』ものだと言いました。事実と異なるとか、そんな表現とは根本的に違う発言になります。

 

これを聞いたMBCの記者が『なぜそう思うのか、説明してください』と話しましたが、尹大統領はそのまま場を後にしました。そして、『答えてください』と言う(ぶら下がる?)記者と大統領室広報企画室秘書官の間に、口論となりました。大統領は記者に対し、敬語も使いませんでした。これが、直接的な理由だと言われています。

<<・・壁が作られているところは、ドアステッピンが行われていた場所で、で尹大統領に質問したMBC記者と、イ・ギジョン大統領広報画秘書管の口論が起きた直後のことです。約4メートルの高さの壁が設置されると、1階の出入口の視野は完全に覆われ、記者は出入りする人を見ることができません。大統領室の関係者は、この事案と直接関連しているとは思わないが、「先週金曜日に不愉快なことがあり、大統領室はこの事案を非常に真剣に見ている」と強調しました。今月2日、非公開で行われた大統領と外国代表団の接見当時、一部の出入記者が事前協議なしに撮影したことがきっかけで壁が設置されるものだとし、ドアステッピングであったこととは関係ないともしました(JTBC)・・>>

 

しかし、その翌日(今日)、ドアステッピングはしばらく中止すると公式発表されました。もし後で再開できたとしても、これじゃ、本来の意味とは違うイベントになるのではないでしょうか。最後に、2019年11月15日、韓国経済の東京特派員が書いた記事を部分引用して、終わりにします。

<<・・経済界だけでなく、日本は政界のリーダーもメディアと広く接している。安倍晋三首相は、毎日出勤、退勤する際に10分以上記者の質問を受け、答えた。一、二年前だけでも、北朝鮮がミサイルを発射すれば、夜明けの6時前に疲れた顔でテレビ画面に登場し、日本政府の立場を明らかにする姿もよく見られた。このような日本首相に対する言論の密着取材慣行は、「ブラサガリ」と呼ばれる。 「ぶら下がる」から来た言葉だ。どのような事項を尋ねるか事前調整は不可能であり、質問内容にも制約がない。ブラサガリの回答を見ると、国政をどれだけ詳細に把握しているのか、首相の実力がそっくりそのまま明らかになる。

 

首相だけでなく、主要閣僚も2週間に1回、記者たちの前に立つ。決まった回答をする場合もあるし、深く考えているとは思えない回答もある。しかし、とにかく言論と国民の前に立って、政策を広報し、政策の責任者として構想と覚悟を明らかにする。日本に対して、私たちより民主主義におくれをとっていると思う人が少なくない・・・・だが、日本社会の回り方、各界の指導者たちが社会とコミュニケーションをとる様子をじっくり見てみると、そうは言えなくなるだろう。韓国で、大統領の記者会見は1年に1、2回開かれるかどうかだ。さらに、長官の中には、記者たちの質疑応答無しに、発表文だけ読みあげる「一人記者会見」を大胆に行う人もいた(韓国経済)・・>>

 

 

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