「住宅の価格と賃貸料金が同時に急落する」現象・・専門家「世界どこにもこんな現象はありません。『誰も経験したことのない』リスクです」

「いま、韓国の住宅市場で、世界の誰も経験したことのない不思議な現象が起きています」。多分、前の大統領の発言を意識したものだと思われますが、漢陽(ハニャン)大学都市工学科、イ・チャンム教授の、朝鮮日報とのインタビューでの言葉です。教授が指摘していることは、「住宅の価格と賃貸料金(家賃など)がともに急落する現象」のことです。あれ、それって無かったのか?と初めて読んだときにはちょっと疑問でしたが、教授によると、もちろん市場による「調整」はあるものの、世界中でそんな現象は無く、住宅市場でいろいろあった韓国でも、いままでそんなことは無かった、とのことです。

もう何度も出てきた単語ですが、一定額の保証金(いわゆる「ジョンセ金」)を預けて家を借りる、伝貰(ジョンセ)制度。ここでいう賃貸料というのは、ジョンセ保証金のことです。教授によると、1990年代には、ジョンセ金は(銀行から借りるのではなく)自己資本だったといいます。でも、もはやジョンセ金も銀行からローンで借りるのがあたりまえになっており、しかも、月払いの家賃がメインの外国とは違い、2つの『同時急落』が、今まで経験したことの無い大きなリスク要因である、とも。記事は題で「1997年を超える結果になるかもしれない」とも書いています。

 

最近、ジョンセ関連でいろいろ記事が出ていて、一つチョイスしようかなと思っていたところでもあるし・・これがなぜリスクなのか、簡単にまとめてみます。まず、1月6日にもエントリーしましたが、「ギャップ投資」というものが流行りました。たとえば、Aさんが、5億ウォンのマンション(実際は、マンションだけとも限りませんが)を購入すると心に決めたとします。でも、心はともかく、Aさんが金融機関から借りられる金額は、ローン全部合わせても2億ウォンだけです。普通、買えません。でも、どうしてもマンションがほしい「A・ザ・ヨンクル」さんは、『3億ウォンのジョンセ金で、どこか良い家が借りられないかな』と物件を探していたBさんと連携します。

Aさんは言います。「まだ家は買ってないけど、これからあの家を買って、それを3億ウォンであなたに伝貰で出します。だから、その3億ウォンを先に私にジョンセ金として預けてください」。これで5億ウォン手に入れたAは、念願のマンションを手に入れました。住むのはBですが。あとは、なんとか2億ウォンのローンを返済しながら、マンションが値上がりするのを待つのみです。これをプギャ・・じゃなかった、ギャップ投資といいます。ただ、この場合、本当に『これ以外』には資産が無いし、これ以上用意できる方法もありません。

 

金融機関が判断した「Aさんに貸してもいい」金額は2億ウォンですから。でも、Aさんが銀行とBさんに返さないといけない元金は、5億ウォンです(ジョンセ金3億ウォン分は、利子無しですが)。妙ですね。金融機関の判断では2億限度の人が、いつのまにか5億ウォンを『借りた』ことになっているわけです。『預かる』という、別の単語を使って。それもそのはず、Bから借りた(預かった)ジョンセ金は、個人間の取引なので、金融機関の判断も、政府の家計債務関連措置も、まったく無関係な分になります。

前にも書きましたが、ジョンセはほとんどが2年契約。新しい入居者Cさんを見つけて、Cからジョンセ金をもらって、それでBのジョンセ金を返済することになります。この場合、もしマンションの伝貰価格が下がって、AがBから預かったジョンセ保証金が、AがCから預かる金額より高かった場合、AはBに、その差額の分を、返すことができなくなります。まさか、そこまで考えずにそんな大金を動かしたのか?と思われがちですが、これが現状です。さて、朝鮮日報の記事によると、このギャップ投資、『一時、ソウルで取り引きされた住宅の40%はギャップ投資によるものだ』、とのことでして。しかも、ジョンセ金が頂点だった2021年の契約が、今年、終わることになります。ギャップで家を買った大家たちは、どうなるのでしょうか。ここからは引用してみます。

 

<<・・ジョンセ市場でギャップ投資はもはや避けて通ることができません。ジョンセは、家主の立場からすると、家を買うための一種の金融商品です・・・・もうジョンセ金を(※自己資本で用意する人はほとんどいなくなり)ローンで借りることが普通となり、変動性が上がり、ジョンセ価格が住宅価格に近づく水準まで上昇し、いわゆる『無資本ギャップ投資』などが広がりました。今のように、急に金利が上がると、ジョンセ価格が急落し、需要が萎縮します。資産に余裕がない無資本ギャップ投資家たちは、耐えられません。投げ売りをしたり、家を売っても、ジョンセ金を返すことができなくなり、破産する人が続出する可能性があります(朝鮮日報)・・>>

教授は、外国の場合は月払いの家賃が一般的なので、経済状況によって調整が入ることはあっても、結局は人々の所得を考えて調整されるだけなので、たとえ住宅価格が急落しても、家賃まで急落することはそう無い、とします。いわば、2つの市場(取り引き価格と賃貸価格)が同時にくずれることはそうなかったわけです。教授は、「1990年代は、それでも、ジョンセ金と住宅担保ローン自体がそう多くなかった。ジョンセも、家も、ほとんど自己資本で設けた。1997年の危機から立ち直ることのできた一つの要因でもある。しかし今は、ジョンセも売買もローンにたよっている。2つの同時急落が続くと、住宅価格と賃貸料金(ジョンセ金)のリスクが連鎖し、いままで経験したことのない大きなリスクをもたらすだろう」と話しています。

 

 

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