韓国社会でたまに耳にする、『人に忠誠したりしない』という言葉の意味

昨日もユン大統領のことでいろいろ書きましたが・・一部の野党議員たちが連帯して、「早期大選」を目指すという記事がありました。改憲して、大統領の任期そのものを短くして、選挙を予定より早期に行うようにするというのです。いまのところ、可能性は高くありませんが、憲法裁判所の判断を待たないといけない弾劾より、憲法改正(国民投票)だけで効果が出る早期大選のほうが現実的なものではないのか、という話も出ています。そういう理由で改憲を目指すとは、実に驚きですが。自分側の人が大統領になったら、今度は任期を延長するよう改憲するのでしょうか。そんな中、朝鮮日報が「ユン大統領は、なぜ上下関係にこだわるようになったのか」という趣旨の記事を載せました。そこで、ある懐かしいフレーズを見つけたので、紹介します。

それは、『人に忠誠しない』という言葉です。企業はもちろんのこと、なにかの民間団体でも、この話は耳に入ってきます。忠誠すべき対象はその団体や組織そのものまたはその理想であり、決して人(権力者)ではないという意味で、権力が1人に集中されることを牽制する趣旨です。言い換えれば、間違っていることは間違っているとちゃんと言わないといけないという趣旨ですが・・ご存知、社会の各分野が「自分側」と「それ以外」にはっきり分かれているので、どうしても「人」への忠誠が優先することになります。表現をちょっと変えてみると、権力者におもねる人が多すぎます。もうちょっと書き方を変えてみると、実際には『そっちの人ではなくこっちの人に忠誠してほしい』という心理の現れだったりします。

 

記事は、文在寅大統領に対して(当時検察総長だったユン大統領は)「私は人に忠誠しない」「検察総長は法務部長官(チョグク氏、チュミエ氏など、文大統領の側近でした)の部下ではない」などと話し、それが支持を集める一因だったのに、いまでは、ユン大統領が当時の文大統領と同じになっている、というのです。ちなみに、検察総長は、職級としては長官と同格です。記事の趣旨は十分理解できますが、これは本当にユン大統領だけの問題でしょうか。人的・物的システムそのものが、『そうしないと機能できない』ようになっているからではないでしょうか。李明博大統領の頃にも、朴槿恵大統領の頃にも(疎通しないという意味で『不通』とよく言われていました)、文在寅大統領のときにも、同じ指摘がありました。盧武鉉大統領の頃は、あったのかなかったのか覚えていません。

大企業もそうですし、社会関連でも似たような話をよく聞きます。特に、なにかあればすぐに階級論が展開されるのは今まで本ブログで何度も取り上げてきましたが、そういうのも上下関係に憧れる心理だとすると、同じ方向性の話になるでしょう。それに、いまは支持率が下がっているからこんな記事も出てきますが、うまく行っているときには、そうでもありません。「カリスマ」「突破力」とし、褒め称える記事がいっぱい出ています。こういうところまで考えると、もっと広い範囲で、『人に忠誠するしかない』状況が作られているのではないか。だから誰もがそこに順応しているのではないか。私見ではありますが、そう思えてなりません。以下、<<~>>で引用してみます。

 

<<・・ピンチの原因は複合的だが、決定的なのは「公正と常識」という核心価値がくずれたからだと思う。ユン大統領は前に「人に忠誠しない」「検察総長は法務部長官の部下ではない」と話したが、それには、聞く人を動かす何かがあった。文在寅政権に背を向けた人々の心をひきつけ、政権交代につながった。しかし、その言葉がブーメランになってユン大統領に返ってきた。大統領と与党代表を対等だとは言えないが、だからといって上下関係でもない。検察総長が法務長官の部下ではないなら、与党代表も大統領の部下ではない。ところが、ユン政権では大統領の意志によって党代表が入れ替わることが繰り返された。総選挙のすぐ前に党代表の役割をしていた対策委員長を辞任させたこともある。「人に忠誠しない」という言葉は、そのまま、政権に振り回されず、公職者としての任務を完遂するという意味、法と制度が志向する普遍的価値を守るという意味で受け入れられた。しかし、ユン大統領は2年6ヶ月間、自分の言葉を守らなかった。

大統領の行為を説明しながら、こんなにも「激怒した」という言葉が出てくる政権は見たことがない。人事も大統領に対する忠誠、大統領との『親しい』のかどうかが基準になる。何の感動も与えてくれなかったという評価が一般的だ。人事は大統領が発信する重要なメッセージでもあるが、するたびに「検察ライン」「キムゴンヒ女史ライン」(※検察で親しかった人ばかり、キム女史と親しい関係の人ばかりを選んだという意味)という話が付きまとった。言うべきことを言っただけなのに、ユン大統領に「誰のために働いているのか」と言われた参謀たちは、その任期も短かった・・・・ユン大統領を支援してきた元老たちは、もはや忠告すらやらなくなったという話も聞こえてくる(朝鮮日報)・・>>

 

いつだったか、万博投票のとき、どう見てもサウジアラビアが当選する勢いだったにもかかわらず、スタッフたちがそのまま報告すると、『なんでそんな報告をするのか』『なんで士気を押さえようとするのか』と『しかられた』という記事がありました。それで、『決選投票で逆転できる』ということになっていた、とか。結果はサウジアラビアの圧勝でした。それと同じ流れではないのか・・そんなところです。これもまた、大統領室だけの問題ではないでしょうけど。

最後にちょっと余談ですが、昨日、「支持率が(ギャラップ社の調査で)19%になった」ことで、大統領室の秘書室長が「EUなどではもともとそんな数値が出るし、日本の岸田総理は13%だったこともある」と話して、ちょっと笑ってしまいました。いや、そういう問題じゃない気がしますが。

 

 

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