本題に入る前に、前に取り上げた件の続報を一つお伝えします。トランプ政権が、TSMCにも中国工場に対するVEU(認定エンドユーザー)資格を取り下げました。ただ、朝鮮日報(朝鮮BIZ)の3日の記事によると、サムスン電子やSKハイニックスに比べるとTSMCの中国工場生産品の売上は少なく、韓国半導体メーカーのような影響はないだろう、とのことです(元ソースはブルームバーグ)。で、本題は、24日にエントリーした「黄色い封筒法」関連の話です。韓国政府が米国側に提示した米韓造船協力プロジェクト「MASGA」の第一歩として、造船大手「HD現代」はグループ内での会社合併を計画していましたが、これについて労働組合が反旗を翻しました。
普通なら「経営判断」として、労働争議の対象にはならなかったはずですが、この前に紹介した「黄色い封筒法」が実行されたことで、もう「経営判断」も対象に含まれます。いままでは、「賃金・労働時間・福祉・解雇その他の待遇」など、労働条件を決定する過程に対してのみ労働争議が可能でしたが、黄色い封筒法では、「全般的な労働条件」、今回のような「経営判断」も対象にしています。記事によっては、「リストラによる結果も労働条件として争議行為が可能になる」と報じています。韓国経済(2日)によると、他にも、韓国GMでも似たようなことが起きている、とのことでして。以下、<<~>>で引用してみます。
<<・・「マスガ(MASGA・米国造船業を再び偉大に)プロジェクト」のためにHD現代重工業とHD現代尾浦(※ミポ)の合併を発表したHD現代グループ。その労働組合が2日、合併に反対するとストに出た。労組の争議行為範囲を賃金・労働条件で構造調整や事業統廃合などに拡大した黄色封筒法(労働組合及び労働関係調整法2・3条改正案)が労組にストの口実を与えたという分析が出ている。米韓協力の核心であるマスガプロジェクトが、政府・与党主導で通過した黄色い封筒法の壁ぶつかったわけだ。建設労組はSKエコプラントを相手に協力企業労組員を直接採用するようにとSKグループ本社前でデモを予告するなど、黄色い封筒法を根拠にした労組の実力行事が全方位的に拡散している。
労組はストの理由として、先月27日に発表したHD現代重工業とHD現代ミポの合併決定を挙げた。労組は「電撃的な合併のことで、労組に一言もなかったのは残念」とし「合併関連の詳細資料と雇用保障案を即時提示せよ」と要求した。黄色い封筒法に明示されているように、経営上の主な決定を労組にあらかじめ知らせたり、一緒に決定しなかったので、ストに突入するということだ。黄色い封筒法は、労組の争議行為範囲を既存の賃金・労働条件の中心から、構造調整、整理解雇、事業統廃合など労働条件に重大な影響を及ぼす経営上の決定にまで拡大させた。3社労組は来月追加的な共同ストも予告した・・
・・韓国GM労組も「仁川富平工場遊休敷地・国内9社の直営サービスセンターの売却」など経営上の判断に反対してストを始めた・・・・当期純利益の15%に相当する成果給などを要求していることも分かった(※いまの韓国GMは、その生産量のほぼすべてが米国に輸出されます。いわば、米韓FTAあってこその、米国内販売のための生産拠点です。その分、今回のトランプ関税の影響をもっとも強く受ける会社だと指摘されています)。
黄色い封筒法を利用し、建設労組もストの強度を上げている。全国民主労働組合総連盟 全国建設労組水原南部支部は、20日までソウルSKソリンビルの前でデモを開く計画だ。彼らはSKエコプラントが建てている京畿道龍仁の半導体クラスター現場で、協力企業が民主労総所属労組員を雇用しなければならないと要求している。黄色い封筒法による、下請を受けた会社の労働者に対する、元請の責任を強化するという内容が盛り込まれたことを根拠にし、デモに出たのだ。SKエコプラントは「多数の個別協力会社の雇用などに元請けが介入するのは明らかな経営干渉」と反論した(韓国経済)・・>>
最後のSKエコプラントの件が、事前の各メディアの報道では「黄色い封筒法のもっとも難しいところ」とされてきました。たとえば、Aという大企業があって、B社やC社など多くの企業が、A社から下請けを受けているとします。その場合、いままでは、A社はA社の労働組合とだけ交渉すれば、それでよかったですが、黄色い封筒法では、B社やC社の労働組合も、A社を相手に労働争議を起こすことができます。特に、自動車、造船分野では、大企業1社が、無数の企業を相手に団体交渉をしなければならなくなる、と指摘されていました。ちょうど今回も造船関連ですが、「大手造船社の場合、団体交渉対象になる会社が1000~2000社を超える」という話もあります。ただでさえ、米韓首脳会談の(安保、貿易などでの)結果が思わしくないと指摘されている今日この頃ですが。はてさて。
ここからはいつもの告知ですが、新刊のご紹介です。いつも、ありがとうございます。今回は、<韓国リベラルの暴走>という、李在明政権関連の本です。新政権での日韓関係について、私が思っていること、彼がいつもつけている国旗バッジの意味、韓国にとっての左派という存在、などなどを、自分自身に率直に書きました。リンクなどは以下のお知らせにございます。
・皆様のおかげで、こうして拙著のご紹介ができること、本当に誇りに思います。ありがとうございます。まず、最新刊(2025年8月30日)<韓国リベラルの暴走>です。韓国新政権のこと、日韓関係のこと、韓国において左派という存在について、などなどに関する本です。・準新刊は<THE NEW KOREA>(2025年3月2日)です。1920年代、朝鮮半島で行われた大規模な社会・経済改革の記録です。原書は1926年のものです。・既刊、<自民党と韓国>なども発売中です。岸田政権と尹政権から、関係改善という言葉が「すべての前提」になっています。本当にそうなのか、それでいいのか。そういう考察の本です。・詳しい説明は、固定エントリーをお読みください。・本当にありがとうございます。