「家を借りるシステム」の現状・・10%以上の大家が「保証金が返せない」リスク

月々の支払いである「ウォルセ(月貰)」ではなく、まとまったお金をジョンセ保証金(以下、ジョンセ金とします)として預けて家を借りるジョンセ(伝貰)システム。一時は住宅価格の30%でも普通でしたが、最近は60%まで上がったとか、そんな話を聞いています。経済状況によって変わりますけど。ジョンセ金は後で返してもらえるし、大家としては投資資金が手に入るので、韓国の高度経済成長期を支えた、庶民の味方的なシステムでもあります。本格的に普及したのは1970年代、家族単位で都市(ソウル)に移住した人たちにとっては、特に大きな存在でした。

でも、随分前から、このシステムの問題点が浮き彫りになってきました。いろいろありますがもっとも重要なのは、大家がそのジョンセ金で、短期間で(普通は2年契約です)ちゃんとした利益が残せなくなったことです。書き方はわるいですが、どっかに使ってしまう場合も多くなりました。だから、新しい入居者が来ないと、前の入居者が預けたジョンセ金が返せない、そんな状態が増えました(新しい入居者からジョンセ金をもらって前の入居者の分を返す)。韓国の家計債務でよく「まわしてふせぐ(ドリョマッキ、ローンでローンを返済する)」が話題になりますが、大家とて例外ではなくなったわけです。

 

それに、最近、新しい問題が2つ発生しました。一つは、家の価格が下がったことです。ジョンセ金は一般的に家の価格と連動します。それに、入居者としてもジョンセ金はローンで用意することになるので、金利が上昇していると、ジョンセ金を下げないと人が来ません。こうなると、「新しい入居者からもらって前の入居者の分を返す」ことができなくなります。もう一つの問題は、ジョンセで入居していた人たちが、月貰に転換する流れができています。ジョンセ金の金利負担が高くなり過ぎで、これならあとで返してもらえなくても月々払うほうが安く済む、と判断しているわけです。実際、ジョンセ金ローンの償還が増えている(ジョンセをやめて大家から返してもらい、金融機関に返済した)、とのことでして。

そんな中、韓国銀行が、ジョンセ金が10%下落するだけでも、大家の11%は、新しく金融機関からローンを受けないかぎり、入居者にジョンセ金を返すことができなくなるとの予測を出しました。聯合ニュースなど複数のメディアが報じています。しかも、ここでいう「ローンを受けて用意する」のは、ジョンセ金の全額ではなく、「下落分(10%分)」のことです。先も書きましたが、多くの場合、大家がジョンセで家を貸すのは、何かの投資にジョンセ金を使うためです。そんな状態で、新しくローンを受けて(多分、もう手元には無い)ジョンセ金と、その下落分まで用意することができるのか。個人的には、「全員ではないにせよ、かなり難しいのでは」と思っています。また、「ちょっと見積もりがあまくないのか」とも思っていますが・・そこはともかく、<<~>>で引用してみます。

 

<<・・ジョンセ価格の下落が続き、大家の11%は金融機関からローンを受けないとジョンセ金がこそチャーターを返すことができると推定された。一部の大家は、金融資産を処分してローンを受けても、下落分を完全に返すことは難しいと分析された。韓国銀行は22日に出した金融安定報告書に、「最近の住宅ジョンセ市場の状況変化が家計債務の健全性などに及ぼす影響」を分析した。最近、住宅価格とともにジョンセ価格も6月から下落転換し、その幅も拡大している。 一方、ウォルセ(月貰)価格は上昇を続けている。ジョンセ・ウォルセのうち、ジョンセの比重は2019年59.9%から2020年59.5%、2021年56.5%、今年1~9月には48.2%に下がった・・

・・(※これは家計債務問題としては総額が減るため助かるという側面について書いたあと)しかし、ジョンセ価格が短期間で急落した場合、入居者の一部がジョンセ金の返還に困難を経験する可能性も高くなる。韓銀が2021年家計金融福祉調査データを活用し、ジョンセ価格下落の場合の返還能力をチェックした結果、ジョンセ金が10%下落した場合、大家の85.1%は金融資産を処分すればジョンセ金の下落分を用意できると推定された。しかし、11.2%は金融資産の処分とともに金融機関からの借り入れが必要だと分析され、3.7%は金融資産の処分および追加で借り入れても、下落分を用意することは難しいことがわかった(聯合ニュース)・・>>

 

この前のラスト・ヨンクラーもそうでしたが、この「ジョンセ金もらって投資」においてかなりラスボスな事例を一つ紹介します。聯合ニュースの別記事ですが、マンション1棟60世帯を全部買って、それを全部ジョンセで出していた人の話です。推測ですが、そのマンション1棟も、ジョンセ金もらって投資、を繰り返した結果ではないでしょうか。

<<・・A(43)氏は昨年7月30日、仁川市~~~にあるマンションに引っ越すため、2年間のジョンセ契約を結んだ。70㎡(21坪)規模のマンションにジョンセ金9千万ウォンで、周辺の相場と比べてもいいと思われた・・・・9月、郵便箱からオークション開始関連郵便物を発見した。オークションにかけられたのはAさんが住む家だけではなかった。同じマンション60世帯のうち58世帯が、9月から順番に任意オークション行きで、7世帯はすでに落札された。アパート全世帯を所有した大家が、銀行から受けた住宅担保ローンを返済せず、税金も滞納し、マンションの大多数の物件がオークションにかけられたのだ(聯合ニュース)・・>>

 

58世帯のうち、ジョンセ保証金を返してもらえた世帯は無く(家がオークションで売られても、税金や金融機関の分が優先され、個人間取り引きとされるジョンセ保証金まで返してもらえることはほとんどありません)、ジョンセ金もローンで受けたものだったのに変動金利で13%まで上がり、Aさんは毎月150万ウォンに達する元利金まで出している、とも。個人的に、家族みたいに仲良くする大家と入居者も見てきましたが・・これもまたともかくして、最後に一つだけ。「先生、10%なら、データ分析している間にすでに下落したと思います」。

 

 

・以下、コメント・拙著のご紹介・お知らせなどです
エントリーにコメントをされる方、またはコメントを読まれる方は、こちらのコメントページをご利用ください。以下、拙著のご紹介において『本の題の部分』はアマゾン・アソシエイトですので、ご注意ください。

  ・様のおかげで、こうして拙著のご紹介ができること、本当に誇りに思います。ありがとうございます。まず、最新刊(2022年9月2日)からですが、<尹錫悦大統領の仮面 (扶桑社新書)>です。文在寅政権の任期末と尹錫悦政権の政策を並べ、対日、対米、対中、対北においてどんな政策を取っているのかを考察しました。政権交代、保守政権などの言葉が、結局は仮面が変わっただけだということ、率直に書きました。 新刊<日本人を日本人たらしめているものはなにか~韓国人による日韓比較論~>も発売中です。「私はただ、日本が好きだから、日本人として生きたいと思っています」。これが、本書の全て、帰化の手続きを進めている私の全てです。 刊として、日本滞在4年目の記録、<「自由な国」日本「不自由な国」韓国 韓国人による日韓比較論 (扶桑社新書) >と、新しく出現した対日観について考察した卑日(扶桑社新書)>も発売中です。 ・刊・準新刊の詳しい説明は、固定エントリーをお読みください。 ・当に、本当にありがとうございます。書きたいことが書けて、私は幸せ者です。それでは、またお会いできますように。最後の行まで読んでくださってありがとうございます。