韓国の軍事専門家「北朝鮮がミサイルを発射すると日本全域に7分30秒で届くのに、他国の事前同意や許可など、できるはずがないでしょう」

ヨンクルほどではないにせよ、本ブログに出番の多い「反撃能力」。駐日駐在武官出身で、国防外交協会長のクォン・テファン氏のインタビュー記事(中央日報)があったので、紹介します。会長の見解は、他のメディアに載っている関連内容とは異なるもので、『もう決まったことなので、事前許可がどうとか言ってないで、朝鮮半島有事の際に両国がそれぞれ具体的にどんな役割をするのか、いまからでも話し合うのがいいだろう』という見解を出しています。2015年、すでに日本の防衛相が、北朝鮮に対する自衛権発動に関して『韓国政府の施政権は北側まで届かない(事前同意は必要ない)』と話した、とも。

何度も取り上げましたが、この件、韓国政府は『たとえ米軍の作戦区域内でも、自衛隊は朝鮮半島に進入してはならない』という公式立場であるため、いざというときに詳しく両国がそれぞれ何をするのかについて、ほとんど決まっていません。「日米韓共助」とはいうけど、実は米韓共助しかプランが無いわけです。クォン会長はこの部分を指摘したのだと思われます。北朝鮮が発射したミサイルは7分で日本まで届くのに、事前同意ってできるわけがないだろう、という趣旨も話しています。

 

また、『北朝鮮も領土の一部』という憲法解釈(朝鮮半島唯一の合法政府は韓国であり、北側は国家や政府ではない)を理由に、国防部は事前同意や許可などを主張していますが、クォン会長が紹介した2015年中谷元防衛相の『施政権が及ばない』という発言は、たとえ唯一の政府だとしても、施政権が及ばない状態ではないのか、だからその領域に対して事前同意を得る必要はない、という現実的な指摘です。これは、別に例の憲法解釈と相反する内容ではありません(北側を別の政府だとは言っていないし、これは日米の共通したスタンスです)。以下、<<~>>が引用部分となります。

<<・・(※質問「私たちの同意なしに、日本が北朝鮮の核・ミサイル施設に反撃能力を行使するのではという懸念が出ている」に対して)「そのような懸念なら前からあった。 実際、2015年日本の集団的自衛権行使のための安保法制が議論になった時、ハンミングク国防長官と中谷元日本防衛相の会談があって、関連した議論が行われた。ハンミングク長官は『憲法上、北朝鮮も領土の一部』とし、『朝鮮半島有事の際、自衛隊が北朝鮮を攻撃するときは必ず私たちの事前同意を受けなければならない』と問題を提起したことがある。その時、中谷防衛相は、『韓国の施政権(立法・司法・行政などの行使権限)は休戦線以南地域だと知っている』と答えた。にもかかわらず、日米韓安保協力次元で、有事の際、その問題は当然、事前議論の過程を経るだろうとも述べた。結局、『両国間の安保懸案に関して日韓・日米韓協力の重要性について認識を共にした』というレベルで、両国の公式立場はまとめられた」

 

(※「軍事的側面から見るとどうか」という質問に対して)「北朝鮮がミサイルを撃つと7分30秒で日本全域に届くのに、事前の同意が現実的に可能なのか疑問だ。日本や米国が北朝鮮の攻撃を受ける状況は朝鮮半島有事の際を前提とするため、このような共通した認識をもとに事前に対処をしておく必要がある。 日米韓間の緊密な情報共有はもちろん、有事の際の相互役割分担と対処のための訓練も進めなければならない。これまで有事の際の作戦に対する役割分担論議が無かったため、関連した議論は急ぐべきだ」

(※「ジェイク・サリバン米ホワイトハウス国家安保補佐官は、日本の決定を大いに歓迎したが」という質問に対して)「米国は旧ソ連と結んだ「中距離核弾道ミサイル制限協定(INF)」のため、域内に配置した中距離ミサイル(射程距離500~5500キロ)が無い。一方、中国は1900発の弾道ミサイルと300発の巡航ミサイルを配置した。朝鮮半島と台湾海峡の有事の際、中国が勝つのではないかという懸念が大きい。日本が最大500発の米国産トマホーク巡航ミサイル(射程距離1250キロ)を購入し、独自の長射程ミサイル開発・配置に今後5年間で5兆円を注ぐことにした背景でもある」(中央日報)・・>>

 

さて、このような「現実」指摘が、どこまで通用するのか。米国側が歓迎している以上、尹政権としては動きが限られるでしょうけど、実際に「有事の際の対策」に関する話し合いまで展開するのか。それを、世論が大人しく見ているだけだろうか・・なにより、その話し合いが始まったとしても、少し進んだ頃にはまた別の政権になっていないか、などなど、問題は山積みです。ちなみに、国務総理だったかな、政界の大物が『有事の際なら、米国の要請などでそんな(自衛隊が域内に入る)議論もあるのでは?』と話しただけで、大騒ぎになったこともあります。

 

 

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