韓国の「65歳以上、地下鉄運賃無料」制度の現状

「電気料金もガス料金もそうですが、とにかく安くして、でもそろそろ限界になって、それでも世論を気にして値上げできず、『次の政権』の仕事になる」。電力公社がもっとも話題になっていますが、実はガス公社も住宅公社も、状況は似たようなものです。思えば、10年ぐらい前、日本旅行が話題になったときには「食堂でおかずのおかわりが無料」を韓国の大きなメリットだと宣伝する記事や書き込みも結構ありましたが、全てではないにせよ、その実態は「再利用」で、最近は多くの店がおかわりに応じなくなりました。でも、客におこられるので、仕方なく応じている店もまだある・・とも聞きます。大統領から街の食堂まで、同じパターンです。

同じ流れで、今回は「65歳以上地下鉄運賃無料」が議論になっています。この制度の基本が作られた1984年には、国民年金(にあたいする制度)も無かったし、そもそも高齢層人口がそう多くありませんでした。それに、前にも何度か同じ文章を書いた記憶がありますが、親の老後は子、特に長男が面倒をみるものだとする社会意識が強く、当時の各政権も同じで(利用した、と見ることもできますが)、福祉、特に国民の老後について、政府がこれといって力を注ぎませんでした。その分、予算を他の分野に使うこともできたわけです。いわば、「敬老」に頼る側面が強かったわけです。

 

そこで、「政府もちゃんと敬老していますよ」という姿勢を示す必要があったわけです。それが、65歳以上地下鉄運賃無料制度の背景です。しかし、もう敬老はおろか、高齢層と青年層の対立が社会問題になっているのが現状です(最近はあまり聞かなくなりましたが、政治関連の『左右葛藤』にちなんで、これを『上下葛藤』と呼ぶ人たちもいました)。そろそろ、この運賃無料制度をなんとかしなければ・・という議論は始まっているものの、これをやれば支持率が下がるのは明らか。一部のメディアが、電気料金値上げと同じ「猫の首に鈴をつけるようなもの」としており、具体的な政策も見えていません。以下、<<~>>朝鮮日報の関連記事ですが、原文には無賃乗車となっていますが、読み方によっては払うべき料金を払わなかったようなニュアンスにもなるので、本エントリーでは「運賃無料」としました。

 

<<・・「新型コロナ以降、毎年(ソウル地下鉄公社の)赤字は1兆ウォン台になっていますが、このうち運賃無料乗車比率が30%程度です。新型コロナ以前は運賃無料の割合が60%を超えていました。公共交通機関の料金体系の再編のため、社会的議論を始めるべき時期です (オ・セフン ソウル市長)・・・・65歳以上の高齢者に対する地下鉄運賃無料制度について、議論が熱い。 オ・セフン ソウル市長が火をつけた。オ市長は先月30日、地下鉄運賃無料による赤字が相当なものだとし、中央政府がこれを保全してくれなければ、料金引き上げが避けられないという趣旨で話した。オ市長は去る3日、大韓老人会と意見交換を始めたとしながら、「すべての可能性を開けておいて、市民社会と国会、政府などと議論する」と話した。

65歳以上の高齢者が地下鉄を完全無料で利用できるようになったのは、1984年6月からだ。当時大統領だったチョン・ドゥファンは、「高齢者福祉向上」と「敬老思想高揚」を理由に、高齢者の地下鉄料金を100%割引し、そのまま40年近く維持された。65歳以上に公共交通機関の料金を免除するのは、主要先進国でも見るのが難しい福祉制度だ。2000年代に入って、この制度の改善が必要だという議論が活発に出てきたが、ちゃんと推進されたことはない。しかし、最近は人口構造が変化したため、見直しが避けられないという観測も出ている(朝鮮日報)・・>>

 

もっとも多いのは「70歳からにするのはどうか」というものですが、その場合は他の様々な制度にも影響する(同じ政府政策なのに、政策ごとに高齢者の基準が異なることになる)ので、結局はまた「次の政権」の仕事になるのではないか、という観測も出ています。国民年金、電気料金、ガス料金、国民健康保険、などなどで、同じ趣旨の話が増えてきました。さて、「次の政権から本気だす」はいつまで続くのでしょうか。要は、「いままでは安すぎたのだ」という認識があるのかどうか、ですが・・ 今日の更新はこれで終わりです。次の更新は、明日(日曜)の朝11時頃になります。

 

 

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